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放課後。廊下の奥の空き教室。カーテンが閉め切られ、薄暗い。
「なあ、今日も“確認”しよーぜ」
誰かが笑うと、数人が取り囲む。
机と椅子をどかし、床の真ん中に遥を押し出した。
「ほら、そこ立って」
「……やめろ」
かすれた声。
けれど、その一言で彼らは一層笑う。
「お、喋った!」
「やめろだって。怖いんだ?」
笑い声の中で、誰かが椅子を蹴り倒す。
ガタン、と音が跳ね、
その勢いで背中を押された遥が尻もちをつく。
「座れって言ってねえし」
すぐに足が飛んだ。腹を横に蹴られ、息が止まる。
床の埃と金属の味が混ざって、喉が焼ける。
「……やめて、って言ってるだろ」
声にならない声。
「何それ?命令?」
「こいつマジで笑える」
周りの笑いが連鎖する。
一人が上履きで腕を踏み、もう一人が机を持ち上げて倒す。
鉄の脚が頬をかすめ、皮膚が裂ける。
痛みより先に、音が耳の奥で響いた。
「おい、泣けよ。リアクション薄いとつまんね」
「うるさい……」
「え?」
「うるさいって言ったの?」
次の瞬間、誰かが後ろから首を掴んだ。
息が詰まり、床に押しつけられる。
頬が冷たくなり、視界が傾く。
「なあ、こいつ昔からこうらしいぜ」
「兄貴に鍛えられてるんだって」
その言葉に、空気がざらつく。
彼らの笑いが、好奇心の色を濃くしていく。
「へえ……じゃあ、どこまで耐えられるか試そっか」
「ちょ、やめ――」
声が途切れた。腹にまた一撃。
肺の空気が全部抜け、身体が反射的に丸くなる。
「ほら、倒れるなよ」
「……もう、やめて……」
笑いが一瞬止まり、
だがすぐに、誰かの靴底が再び動いた。
──その光景を、誰も止めなかった。
窓の向こうから、運動部の歓声が届く。
明るい声と、暗い音が混ざって、
まるでどちらも同じ“日常”の一部のように聞こえた。
「もう帰るか」
「また明日な、“耐久テスト”」
彼らが出ていったあと、静寂が落ちる。
遥は床に手をつき、かすれた声で呟いた。
「……何が、楽しいんだよ……」
返事はなかった。
ただ、沈んだ夕日の光が、床の血を赤く照らしていた。