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#読み切り
ruruha
656
ゆうまる
121
きっかけは、たった一言だった。
「ねえ、これさ。
もう個人の問題じゃなくない?」
誰かがそう言った瞬間、
空気がふっと軽くなる。
責任が分散される合図だ。
「うん、クラス全体の話だよね。
遥がどうこうっていうより」
その言い方で、
遥の名前は“原因”から“前提”に変わる。
黒板の前。
担任はいない。
でも、まるで会議みたいだった。
「最近、クラスが落ち着かない理由。
みんな分かってると思うんだけど」
誰も遥を見ない。
でも、視線は全部、遥を避けている。
「遥がいるとさ
空気が変になるんだよ」
遥は思わず言う。
「……俺、何かした?」
一斉に、首が横に振られる。
「してない、してない」
「だからこそ厄介なんだって」
「悪気がないのに、場を壊す人っているじゃん」
その言葉で、
“やってない”ことが、免罪されなくなる。
「気使わせるっていうか。
存在の問題?」
誰かが笑う。
でもすぐ、別の誰かが言う。
「笑うとこじゃないでしょ。
真面目な話だから」
真面目だからこそ、
残酷さにブレーキがかからない。
遥は、少し声を張る。
「……じゃあ、どうすればいいんだよ」
その瞬間、
“共通認識”が完成する。
「ほら、そうやって」
「すぐ空気重くする」
「詰められるとキツいんだよね」
「質問されるのも、正直しんどい」
遥の言葉が、
“症例”として扱われる。
「だからさ。
クラスとして決めたいんだよ」
決める。
誰が?
全員が。
「遥は、前に出ない」
「話し合いの場では発言控える」
「グループは固定しない方がいいかも」
「トラブル防止で」
トラブル。
遥は、喉が乾く。
「……それって、俺が悪いってこと?」
一瞬、沈黙。
そして、全員が同じ表情になる。
「“悪い”じゃない」
「“そういう人”ってだけ」
分類。
理解。
整理。
「個性だよ、個性」
「でもさ、個性って周りが受け止めきれないと問題になるでしょ」
誰かが、決定打を出す。
「みんな、そう思ってるよ」
それで終わりだった。
誰一人、
「俺は違う」と言わない。
遥は笑おうとして、失敗する。
「……そっか」
その一言が、
同意として記録される。
(違うって言っても)
(もう“分かってない証拠”になる)
(黙っても)
(“自覚してる”って処理される)
遥は、そこで初めて気づく。
(あ、これ)
(俺の意見、もう要らないんだ)
クラスの中で、
遥は“説明済みの存在”になる。
コメント
1件
この42話、すごく胸が締め付けられました…。「してない、してない」って首を振られるところ、“やってない”ことが逆に責められる材料になる理不尽さがリアルで。最後の「俺の意見、もう要らないんだ」という遥くんの気づき、静かな絶望がひしひしと伝わってきました。同調圧力の空気感、一文一文に宿ってましたね🌷