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夜。

部屋が少し乾いている。

真白はソファに座ったまま、空気を吸って、吐いた。

眉がわずかに寄る。


「乾いてる」


アレクシスがキッチンから顔を出す。


「うん、俺も思ってた」

「加湿器」

「出す?」

「もう出てる」


真白、視線だけで床を示す。

隅に置かれた加湿器。静か。


「……動いてないね」

「動いてない」


アレクシスが、近づく。

電源を押す。反応なし。


「水」

「入ってない」

「そっか」


アレクシスは、タンクを外して持ち上げる。軽い。


「入れる?」

「入れて」


キッチンで水を入れる音。

戻ってくる。

セット。電源。

小さく、動き出す音。


「おお」

「文明」


しばらく、二人でその音を聞く。

加湿器の蒸気が、ゆっくり出る。


「近いとちょっと寒い」


真白が言う。


「遠ざける?」

「いや」

「どっち」

「ちょうどいい」

「高度」


アレクシスは少し位置をずらす。

真白の足元から、テーブルの横へ。


「これで?」

「……うん」


間。


「アレク」

「ん?」

「さっきから全部聞くね」

「聞くよ」

「自分で決めてもいい」

「でも一応」

「一応」

「嫌だったら言って」

「嫌じゃない」


少しだけ沈黙。

加湿器の音。

時計の音。

真白がブランケットを引き寄せる。


「乾燥すると喉やられる」

「真白、声大事だもんね」

「仕事で使う」

「あと俺と喋るのにも」

「それは別に」

「別?」

「……多少」

「多少か」


アレクシスは笑う。

ソファの端に座る。

真白の肩に、蒸気が少しかかる位置。


「ここでいい?」

「いい」

「もうちょいこっち?」

「いい」

「微調整」

「任せる」


アレクシスは、ほんの少しだけ近づける。

蒸気がふわっと広がる。


「……ちょうどいい」

「よかった」


数分、何も起きない。

ただ湿度が上がる。

真白が小さく言う。


「喉、楽」

「もう?」

「うん」

「早いね」

「気のせいでもいい」

「いいね」


間。


アレクシスが立ち上がる。


「加湿器の水、減ったらまた入れる」

「ん」

「夜中でも」

「起きてたらやる」

「起きてたら」

「起きてること多いし」

「じゃあ俺も」

「寝ていい」

「でも気になる」

「気にしなくていい」

「でもやる」

「……うん」


真白はソファに少し深く座り直す。

蒸気が、静かに上がる。


「アレク」

「ん?」

「これ、いい」

「加湿器?」

「うん」

「よかった」

「……部屋の感じも」

「感じ?」

「落ち着く」


アレクシスは、少しだけ笑った。


「じゃあ、冬の間ずっと出しとこう」

「うん」


加湿器の音だけが、しばらく続いた。

ひとつ屋根の下、コーヒーの香り。

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