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文化祭当日。体育館は、異様な熱気に包まれていた。 「変身美食部」に用意されたステージは、プログラムの最後。ハルは、積み上げられた機材の前で、震える指先を鍵盤に置いた。
隣には、最初に出会ったあの日と同じ、魔法使いのローブを纏ったリコがいる。 「……ハル。準備はいい?」 「ああ。最高のスコアだ」
ハルが最初の音を鳴らした瞬間、体育館の空気が変わった。 それは、ハルがこの数ヶ月間で集めてきた「リコのすべて」を詰め込んだ旋律だった。激辛カレーを啜る音、走り抜ける足音、そして、二人で分かち合ったアイスのパッケージを開ける些細な音。それらすべてが、暴力的なまでの重低音と混ざり合い、一つの巨大な「生命」となって鳴り響く。
「いっけええええええ!」
リコが叫び、歌い出した。 マイクが壊れんばかりの声。それはもはや歌というより、魂の咆哮だった。全校生徒がその「ハチャメチャな熱」に当てられ、拳を突き出す。
ハルは鍵盤を叩きながら、心の中で何度も叫んでいた。 (聴いてくれ、リコ。この音が、僕の答えだ。僕が君をどう思っているか、この旋律の中に全部隠したんだ) 曲のラスト、ハルは用意していた「秘密の合図」を奏でた。自分たちの心拍数をサンプリングしたリズム。それは、言葉にできない「告白」そのものだった。
ライブは、伝説と呼ばれるにふさわしい大成功で幕を閉じた。 嵐のような拍手の中、二人はステージの裏へ逃げ込んだ。
「ハル! すごかった! 私、今、世界で一番生きてる気がする!」 アドレナリンで瞳を輝かせ、リコがハルの肩を掴む。ハルの体温も異常に高かった。まだ耳の奥で、ベースラインが心臓を叩いている。
「リコ、俺……伝えたいことが」 ハルが彼女の肩を抱き寄せ、その唇を塞ごうとした瞬間。 リコがふっと、力なく笑った。
「……ハル。最高の思い出を、ありがとう」
その言葉は、まるで永遠の別れを告げる予鈴のように、ハルの胸に冷たく刺さった。 二人はその夜、誰もいない部室で、重い衣装を一枚ずつ脱ぎ捨てた。魔法使いでも、騎士でもない、ただの剥き出しの少年と少女に戻って、互いの体温を、鼓動を、記憶に焼き付けるように重ね合った。
シーツの擦れる音が、切ないバラードのように響く。 ハルは、リコの首筋に顔を埋め、彼女の匂いを吸い込んだ。 (言わなきゃ。好きだと、行かないでくれと) けれど、その言葉は熱い吐息となって消えていった。
翌朝。 差し込む朝日の眩しさにハルが目を覚ますと、隣の毛布はもう冷たくなっていた。 残されていたのは、昨日二人で食べたお菓子の空き箱と、ハルが彼女に贈った曲の、未完成のスコアだけだった。