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社内モニター調査の日、会議室には親子連れが数組集まっていた。
新商品の方向性を探るための座談会だと説明され、クリストルンは補助役として端に座る。議題は声付き玩具ではなく、ふつうのぬいぐるみやごっこ遊び商品だったが、彼女の頭の中には別の問いが居座っていた。
親は、子どもにどんな言葉を渡したいのだろう。
座談会の終盤、エマヌエラがやわらかく尋ねた。
「お子さんに、本当はもっと伝えたいのに、うまく言えないことってありますか」
場が少し静かになる。
答えたのは、仕事帰りらしい服装の女性だった。目の下にうっすら疲れがある。
「あります」
その声は小さい。
「朝は急いでて怒ってばかりで、夜はもう眠くて……本当はもっと別のこと言いたいんですけど」
「たとえば?」
「……『助けるよ』、とか」
クリストルンのペン先が止まる。
女性は苦く笑った。
「何でも一人でやらせたほうがいいのかなって思って、つい『自分でして』ばっかり言ってしまうんです。でも、本当は困ったら助けるよって言いたいのに、うまく口に出なくて」
隣にいた娘は母の袖を握りながら、黙ってその顔を見ていた。
クリストルンは、メモ帳の余白に大きく書く。
助けるよ
何度もなぞるうちに、文字が少し太くなる。
その一言は、助けるという約束であり、見捨てないという宣言でもある気がした。
座談会のあと、ルチノがメモ帳をのぞいた。
「ずいぶん大きく書いたな」
「消えないようにです」
「そんなに大事か」
「はい。たぶん、これが玩具の中に入ってたら、泣く人がいます」
ルチノは少し黙った。
「……いるだろうな」
「主任も?」
「何がだ」
「泣く人」
「そういう話はしていない」
「してます、顔が」
ルチノは視線をそらし、資料を閉じる。
図星を刺したらしい。
その背を見ながら、クリストルンは思う。
助けるよ。
短いのに、背中を支える言葉だ。
子どもに向けても、親に向けても、きっと同じ重さで届く。
帰宅後、月椿堂で帳場に座るモンジェの横顔を見た。
父もまた、言えなかった言葉を飲み込んできたのだろうか。
クリストルンは口を開きかけ、閉じる。
今はまだ聞かない。
でも、その代わりに作れる物があると、少しだけ信じられた。
空乃 美晴
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雨晒しの原稿用紙
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