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放課後の教室は、夕日のオレンジ色に染まっていた。
蒼司は自分の机にうずくまるように座り、ノートに視線を落としている。
拓海は少し離れた席から、蒼司をちらりと見つめていた。
「ねえ、今日の課題、手伝おうか?」
拓海の声は自然で、どこか明るさを帯びている。
蒼司は顔を上げず、静かに首を振る。
「大丈夫……」
その声は小さく、弱々しい。だが、拓海にはその控えめな拒絶が逆に胸を締めつけた。
夕日の光に照らされた蒼司の横顔は、いつもより柔らかく見える。
拓海は思わず席を詰め、ノートを覗き込む。
「でも、こうやるともっと簡単になるんだ」
拓海が優しく手を添えると、蒼司の手が一瞬止まる。
心臓がざわつく。
蒼司はわずかに顔を赤らめ、視線を逸らす。
拓海は微笑みながら、そっと手を引かずに近くに置く。
二人の間に言葉は少ない。だが、互いの息遣い、指先の距離、視線の交わりが、確実に感情を伝えていた。
「蒼司、今日も疲れてるの?」
拓海の問いかけに、蒼司は小さく息を吐く。
「……そうかも」
その声は小さく、でも心の奥底の弱さを拓海に曝け出すようだった。
拓海は蒼司の気弱さを知っている。だからこそ、無理に踏み込まず、距離を保ちながら少しずつ寄り添う。
そして蒼司も、拓海の優しさに触れるたびに、少しずつ自分の気持ちを認めざるを得なくなる。
教室に残る最後の光が消えかける頃、拓海はそっと声を低くする。
「蒼司、俺……ずっと、好きだった」
蒼司の胸が高鳴る。
言葉にしなければ、互いの想いは空回りするだけだった。
でも今、夕日の残光の中で、二人は初めて同じ言葉で心を重ねる。
「……俺も」
蒼司の小さな声は、まるで春の芽吹きのように優しく、確かだった。
両片思いの二人は、言葉にせずとも互いを想う日々を経て、この放課後にようやく気持ちを通わせた。
夕暮れの教室に静かに広がる温かさ。
これからもずっと、互いに支え合い、少しずつ心を重ねていくことを、二人は確かに感じていた――。