テラーノベル
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部屋に戻った夏帆は、落ち着こうと椅子に腰を下ろした。
(まさか、あの人が隣人だなんて……驚いた。それに、今から仕事? やっぱりホストか何かの夜のお仕事なのかな?)
隣人がどんな仕事をしているのか、夏帆は気になって仕方がなかった。
長身でイケメン。きちんとした格好をすれば、かなりハイスペックに見える。
それに、女性慣れした柔らかい雰囲気――確信は高まるばかりだ。
(そうよ! ぜったい夜のお仕事だわ)
夏帆はそう結論づけた。
一時間ほど経ったころ、隣の部屋のドアが開く音がした。
(今から出かけるのね)
気になりすぎてじっとしていられず、夏帆は急いで玄関へ向かい、ドアスコープを覗いた。
鍵をかけるカチャカチャという音のあと、靴音が響き、隣人が夏帆のドアの前を通り過ぎる。
ドアスコープからは、これから出勤する透也の姿が見えた。
仕立ての良いスーツに身を包み、髪を整え、髭も綺麗に剃られている。
背筋を伸ばして歩く姿は申し分なく、その雰囲気はモデルや俳優のように堂々としている。
(やっぱりホストかも)
夏帆は確信した。
ホストの中でもナンバーワンか店長、もしくは経営者クラスだろう。
(え? でもホストだったら、こんな古いマンションに住む?)
テレビで見る夜の煌びやかな世界の男たちは、たいていタワマンや塀の高いプール付きの豪邸に住んでいる。
謎が深まるばかりで、夏帆はもやもやした気持ちのまま、部屋へ戻った。
その頃、透也はタクシーに乗り、職場へ向かっていた。
車内で携帯を耳に当て、会社の部下と話している。
「例の株の“売り”の準備を、すぐに進めてくれ」
その言葉に、部下が驚いたように聞き返した。
「米株の“ホワイトテクノロジーズ”ですよね? “買い”じゃなくて“売り”ですか?」
「ああ。おそらくじき終戦に向かうはずだ。だから、一足先に売りを仕掛けるんだ」
「まじですか?」
タクシーの車内なので、透也は声をひそめた。
「戦闘機が撤退している航空衛星画像を入手した。明日、空母が戦地を離れるという噂も耳にした。他にも根拠はいくつもある。俺の予想だと、近いうちに終戦に向かうだろう」
「分かりました。至急みんなに伝えます」
「よろしく頼んだよ」
電話を切ると、透也はふうと息を吐いた。
中条透也は、天才トレーダーだった。
高校時代に投資部へ入り、大学時代にはすでに億の資産を築き上げていた。
その後起業し、ファンドを立ち上げた。
会社名は“Transparent Investment”。
透也の名前に由来し、“透明な投資”を意味する。
設立後、幾度ものショックを乗り越え、今では業界で知らぬ者はいないほどの有名ファンドへと成長した。
タクシーがビルの前に到着すると、透也は背筋を伸ばして颯爽とエントランスへ入っていく。
エレベーターで最上階へ向かい、オフィスのあるフロアに入ると、社員たちが一斉に挨拶した。
「「「おはようございます」」」
時刻は夜だが、彼らの世界ではこれが当たり前だった。
ニューヨーク市場が開く夜が、彼らの始業時刻なのだ。
フロアに足を踏み入れた瞬間、透也の表情はオフのゆるふわ男子から、鋭いプロの顔へと切り替わった。
「みんな、おはよう。さっき連絡した通り、戦争終結の根拠をつかんだ。我が社はこれから大暴れする予定だ。心の準備はいいかな?」
「「「はいっ!」」」
「じゃあ、よろしく頼むよ」
「「「はいっ!」」」
社員たちの表情が一気に引き締まり、各自が席へ戻ってトレードを開始した。
透也が上着を脱いでハンガーに掛けると、若手の男性社員がコーヒーを運んできた。
「ありがとう」
以前は、IR部にいた年配の女性社員が淹れてくれていたが、家庭の事情で急に辞めてしまい、今は若手社員が交代で持ってきてくれる。
代わりの新しい社員を募集しているものの、IR部は総務や秘書業務も兼ねるため、できれば女性が望ましい。
しかし応募してくるのは、透也目当ての下心のある女性ばかりで、なかなか採用には至らない。
それが今の悩みだった。
透也は、若手社員が持ってきた少しぬるいコーヒーを口に含み、ふうっと息を吐いた。
そしてすぐにマルチモニターへ視線を移し、このあとの戦略を練り始める。
そのとき、近くにいたトレーダーが声を上げた。
「打診で売りを入れてみましたが、買い圧がすごいですね。まだ、誰も情報をつかんでないのかな……」
「そうだろうな。だが、時間が経てばじきに気づくはずだ」
透也の言葉に、トレーダーが思い出したように言った。
「もちろん、花田も大量に買ってるんでしょうね」
「だろうね」
「じゃあ、今回も俺たちの勝ちですか?」
「ははっ、残念ながら今回の勝負もいただくよ」
透也は余裕の笑みを浮かべた。
“花田”とは、日本最大手の証券会社・花田証券のこと。
以前夏帆が勤めていた会社であり、もちろん夏帆の元彼・伊坂駿介もこのトレードに関わっているはずだ。
偶然だが、伊坂駿介は透也の高校時代の同級生だった。
二人はともに投資部に所属し、常にライバルとして競い合ってきた。
その因縁は社会人になった今でも続いている。
だからこそ、透也はなんとしても負けたくはなかった。
しかし、他と同じ手法を取っていては勝てない。
だから透也は、こうして他とは正反対の“逆張り”を打つことが多い。
投資の世界は厳しい。
その他大勢の99%ではなく、少数派の1%に入らなければ勝てないのだ。
そのとき、フロア内のテレビに映っていたアメリカの報道番組が、ニュース速報を流し始めた。
フロア内にいた全員が一斉に画面へ注目する。
「たった今、アメリカの大統領が戦争終結の意向を表しました」
その一報を確認した透也は、即座に声を張り上げた。
「よーし、みんないいか! 全力で売れ! 売って売って売りまくれ!」
「「「はいっ!」」」
オフィス内は一気に活気を帯び、トレーダーたちが全力で売りを仕掛ける声が響き渡った。
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ruruha
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コメント
23件
ゆるふわ透也さんは、何と!夏帆ちゃんの🗑️な元彼と同級生でライバル同士!? これは面白くなってきましたね〜!!😁
素直な夏帆ちゃんがホストと決め込んでいる所が可愛い🩷 そして仕事モードの透也さんはかっこいい❣️ 透也さん秘書探しているんでしょ 隣の夏帆ちゃんなら最高の秘書になれそう 元彼と透也さんの因縁対決 仕事も彼女も全部透也さんの一人勝ち‼️かな^_^
透也さん、すごい人なのね✨ ゆるふわとのギャップが♡♡ 秘書募集中‼️これはもう夏帆ちゃんの出番では…!?🤭💗 楽しみな展開にときめいてます♡♡