テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#狂愛
柏木さくら
3,979
#ロマンスファンタジー
Jasmine
987
桃下結衣
916
ruruha
821
部屋に戻った夏帆は、ふーっと息を吐き、椅子に腰を下ろした。
今日は朝から、まさかの場所でまさかの人物に出会ってしまった。
「悪い人ではなさそうだけど……でもホストなんでしょ?」
思わずつぶやく。
改めて見た透也は、やはりかなりのイケメンだった。
きちんとした服装の彼を間近で見るのは初めてで、少し胸がドキドキしてしまう。
(でも、彼はただのお隣さんよ!)
そう自分に言い聞かせ、夏帆は先延ばしにしていた転職先探しに取り掛かった。
そして午後。
パソコンの前に座っていた夏帆は、大きなため息をついた。
(望むような条件の転職先って、なかなかないなぁ……。辞めるの、早まったかなぁ……)
大手金融機関の求人サイトを閉じ、今度はベンチャーや中小規模の金融系の求人が載っているサイトを開く。
上から順に丁寧に見ていくと、ひとつ気になる会社が目に留まった。
“Transparent Investment”。
そう、透也の会社だ。
(これって……昨夜ニュースで見た、一夜にして巨額の利益を出したあのファンド?)
胸が高鳴る。
しかし気持ちを落ち着け、雇用条件をじっくり確認していく。
「募集職種はIR部で、総務や秘書業務も兼務……か。まあ、前の会社ほど大きくないし、いろいろ任されるのは当然よね。でも、なんか逆に楽しそう。で、お給料は?」
ぶつぶつつぶやきながら給与欄を確認した瞬間、夏帆は息を呑んだ。
「えっ? これって、今までの給料の1.5倍は軽く超えてる……嘘でしょ!」
信じられずもう一度見直したが、やはりその額だった。
「お給料はいいし、勤務条件も文句なし。福利厚生も充実してるし、おまけに勤務地はここから三駅。こんな偶然ってある?」
期待で胸がふくらむ。
ただ、昨日ニュースに出たばかりの会社だ。
応募者は殺到するだろうし、採用倍率も相当高いはずだ。
(うん、でもチャレンジする価値はあるわね。よ~し、まずはダメもとでここに応募してみよう!)
そう決意した夏帆は、これまでの仕事のポートフォリオ作りに取りかかった。
その頃――
夏帆の元彼・駿介は、むしゃくしゃした気分のまま自宅のソファに寝そべっていた。
夏帆と付き合っていたころとは違い、部屋は散らかり放題だ。
“休養”という名の、実質三日間の謹慎を言い渡され、やることもなくただぼーっとしている。
平日なので恋人の紗英は仕事。相手をしてもらうこともできない。
「ちっ、肝心なときにはいなくて、ゆっくり休みたいときほど家に上がり込んでくる……。ったく、若すぎて空気読めない女はだめだな……」
自分のことは棚に上げ、付き合い始めたばかりの若い恋人への不満をぶつぶつ言っていたそのとき、駿介はうっかり携帯を床に落としてしまった。
「ちっ……」
起き上がるのも面倒だったので、寝そべったまま手を伸ばし、床をゴソゴソと探る。そのとき、指先が何かに触れた。
ソファの下に何かがある。
それは、一冊の写真集だった。
「あ……これ、夏帆が探してた“佐伯岳大”の写真集だ。ここにあったのか!」
夏帆は山岳写真家・佐伯岳大の大ファンで、彼の写真集はすべて持っている。
最新刊を買った日に駿介の家へ寄り、そのまま置き忘れて帰ってしまったのだ。
夏帆から「家の中を探して」と何度も言われたが、いくら探しても見つからなかった。
いや、正直に言えば――面倒で真剣に探してはいなかった。
また夏帆が来たときに、自分で探せばいいだろうと考えていたからだ。
そうこうしているうちに、彼女とは別れた。
おそらく夏帆も、この写真集のことなどすっかり忘れているだろう。
駿介は写真集を手に取り、裏の値段を見て目をむいた。
「げっ……24000円もするのかよ! すげーな」
あまりの高価さに驚く。
「……ってことは、買い直すのは簡単じゃないな。だったら返してやらないとな」
駿介は何か“いい案”を思いついた様子で、にやりと笑った。
夕方――
夏帆は転職の履歴書づくりをいったんやめ、夕飯の準備のためスーパーへ向かった。
マンションから徒歩五分。近くて便利だ。
初秋の夕暮れ、日が沈み始めると、あたりの住宅街からは夕飯の支度の匂いがふわりと漂ってくる。
(わぁ……なんか懐かしい。前に住んでた場所は、こういう匂いはしなかったなぁ)
母親が作る夕飯の匂いを思い出し、夏帆は子供のころにもどったような温かい気持ちに満たされた。
買物を終えてマンションに戻り、エレベーターを待っていると、携帯が鳴った。
ポケットから携帯を取り出し画面を見た夏帆は、思わず目を見開く。
駿介からのメッセージが届いていたのだ。
「げっ! あいつ、いったい何の用? あ~、私のバカバカ! なんで着信拒否にしておかなかったの~」
夏帆の口からは、思わず嘆くような声が漏れた。
そのとき、背後から軽やかな声が響いた。
「ハロー、夏帆ちゃん! また会ったね! どうしたの? そんな泣きそうな顔して」
その声に、夏帆はドキッとした。
「あ、中条さん、こんにちは。あ、もうこんばんはかな?」
「うーん、まだぎりぎり“こんにちは”でセーフだよ。で、どうしたの?」
「い、いえ……。来るはずのない便りが来たので驚いているって感じですかね」
苦笑しながら答えると、透也が心配そうに首を傾げた。
「なになに~? もしや別れた男から連絡が来たとか?」
図星を突かれ、夏帆は思わず息をのむ。
「なっ、中条さん、なんでそれを?」
「あはっ、ベンチで聞いてたからね~。君の電話、全部!」
「あっ、そっか……」
あの日、親友の杏と電話していた内容を、透也にすべて聞かれていたことを思い出す。
「よかったら相談乗るよ~。俺、男女のことについては得意だからね」
にこやかに笑う透也を見て、夏帆は心の中で毒づいた。
(そりゃそうでしょうよ。女を騙すテクニックに長けた“ホスト”なんだもの)
「あっちの椅子でコーヒーでも飲まない? コーヒーっていっても缶コーヒーだけどさ。そこでゆっくり話を聞こうじゃないか!」
「えっと……でも……」
夏帆が拒否する間もなく、透也は夏帆の手を引いて、入口脇の椅子へと誘導した。
コメント
23件
岳大さんの写真集私も欲しい🌟でもそれをネタに夏帆ちゃんに会おうとする駿介は汚い‼️
透也さん、なんか懐に入るの上手そう(˶ˆ艸ˆ˵)フフフ 夏帆ちゃんの悩み相談から、どう距離を縮めていくのか楽しみ♡
めちゃくちゃ遅れちゃいました💦😭 駿介、あまりにも最低ですね。 その一方で距離が近づいていく夏帆ちゃんと透也さん!! 楽しみです(ΦωΦ)フフフ…