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ドアを開けて入ってきた女子生徒は、椅子に座るなり鞄を床に落とすように置いた。
「……正直、もうどうすればいいかわからないんです」
蓮司は足を組み替えながら、机の上の缶コーヒーを手で転がす。
「どうした。告白でも失敗したか?」
「違います! ……進路です。みんな将来の夢とか言えてるのに、私だけ全然なくて」
彼女は唇を噛みしめる。
「周りが“看護師になりたい”とか“エンジニアになる”とか言うの聞くと……私、空っぽに思えて。普通に生きてるだけじゃダメなのかなって」
蓮司は少し笑った。
「へえ。普通に生きてるって、意外と難しいことだと思うけどな」
「……また冗談ですか」
「本気だよ。だって考えてみろ。学校行って、友達と話して、ちゃんと笑える。それって全部“努力”の結果だろ? 夢があるからって、必ず幸せになれるわけでもない」
彼女は黙り込む。
蓮司は缶コーヒーを開けて、一口飲んだ。
「進路なんて、まだ途中の景色だ。道が見えないときは、“とりあえずここまで行ってみるか”でいいんだよ。迷うってことは、それだけ真剣に考えてる証拠だからさ」
「……でも、何もなかったらどうしよう」
「そのときはまた迷えばいい。人間って、迷いながら探す生き物だから」
彼女は目を伏せていたが、やがて小さく笑った。
「……蓮司くん、ずるいですね。適当そうに見えて、ちゃんと慰めてくれる」
「そりゃまあ、相談室の看板背負ってるからな。で、相談料は?」
「……はいはい。帰りにコーヒー買ってきます」
「いい心がけだ」
彼女は少し肩の力を抜き、席を立った。