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椅子に腰を下ろすなり、男子生徒は深いため息をついた。
「……何やっても親に認められないんです」
蓮司は机に頬杖をついて、その言葉を受け止めた。
「テストの点か?」
「それもあります。でも……部活で頑張っても、『兄貴の方が上だった』って比べられて。家で話しても『そんなの大したことない』で終わり。……なんか、自分が家にいても意味ない気がして」
言葉を吐き出す彼の声は、かすかに震えていた。
蓮司はペンをくるくる回しながら、少し黙り、それから軽く肩をすくめる。
「……親ってやつはさ、どうしても“見えてる部分”しか評価できないんだよ。点数とか、目に見える結果とか。けど、本当に頑張った過程とか、小さな変化までは気づかないことが多い」
男子生徒は唇を噛む。
「……それじゃ、意味ないじゃないですか」
「意味はあるさ。お前が積み重ねた努力は、誰にも奪えない。たとえ親が気づかなくても、それは事実として残る」
蓮司は少し声を柔らかくした。
「認めてもらえなくて苦しいのは、認められたいほど大事に思ってるからだろ。でもな、親の評価だけが“お前の価値”じゃない。自分をちゃんと見てる人、絶対どこかにいる」
男子生徒は黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……蓮司くん、軽そうに見えて、意外とちゃんとしてるんですね」
「おい、それ褒めてんのか? まあいいや。とりあえず今日は俺が認めてやるよ。“よくやった”ってな」
男子生徒の目が一瞬潤んだ。
「……ありがとうございます」
「おう。その代わり、帰りにジュース奢れ。俺を認めるって意味でな」
「はいはい……わかりましたよ」
男子生徒は苦笑しながら席を立ち、少しだけ軽くなった足取りで部屋を出ていった。