テラーノベル
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ドアが開く。
「どうも」
「どうも」
相談者はいつも通りの顔で入ってきて、いつも通りに座る。
鞄を足元に置く仕草まで整ってる。
「今日さ」
「うん」
「俺、いい人やめたい」
蓮司は少しだけ眉を上げた。
「急だな」
「前から思ってたけど」
「何があった」
「別に事件はない」
相談者は肩をすくめる。
「頼まれごと、全部引き受けてさ」
「断らないタイプ」
「断れないっていうか」
「断る理由がない」
「それ」
少し沈黙。
「嫌ではないんだよ。手伝うの」
「でも」
「ずっとやってるとさ」
相談者は机の角を指で叩いた。
「都合いい人になる」
蓮司は頷いた。
「もうなってる?」
「なってる」
「だよな」
相談者は笑う。
「雑に扱われるとかじゃないんだよ。みんな普通に感謝する」
「でも戻らない」
「何が」
「バランス」
相談者は少し止まった。
「それ」
「一回引き受け役になると固定される」
「そう」
間。
「やめればいい」
「やめ方が分からない」
蓮司は机に肘をついた。
「急に断るとさ」
「印象変わる」
「“冷たくなった?”ってなる」
「なるな」
「それが面倒」
「関係崩れるのも」
「嫌」
相談者は息を吐いた。
「いい人って楽なんだよ。ポジションとして」
「説明いらない」
「そう。何も考えなくていい」
「ただ」
「消耗する」
蓮司は少しだけ笑った。
「いい人、職業じゃないのにな」
「副業みたいになってる」
「本業は」
「知らん」
少し間。
「やめたい理由は」
「疲れた」
「十分だ」
「でも」
「うん」
「嫌いになりたいわけじゃない」
「分かる」
蓮司は少し考えてから言う。
「やめるっていうか」
「うん」
「頻度落とせ」
相談者は顔を上げる。
「全部断つんじゃなくて?」
「全部は無理」
「だよな」
「まず一つ」
「一つ?」
「“即答しない”」
相談者は止まる。
「頼まれたら」
「その場で決めない」
「持ち帰る?」
「そう」
「それだけで変わる?」
「変わる」
蓮司は続ける。
「いい人固定のやつって」
「うん」
「反射で“いいよ”って言う」
「言うな」
「そこを止める」
相談者は机を見る。
「考えます、でいい?」
「いい」
「嘘っぽくない?」
「本当だろ」
「まあ」
少し沈黙。
「断るの怖い」
「分かる」
「でも全部やるのもしんどい」
「だから頻度」
相談者は背もたれに寄りかかった。
「週何回とか?」
「感覚でいい」
「ゼロにしない」
「ゼロは反動来る」
「なるほど」
立ち上がる。
「次、頼まれたら」
「うん」
「一回持ち帰る」
「それでいい」
ドアの前で止まる。
「俺さ」
「何だ」
「いい人やめたら、嫌われる?」
「少しはな」
「少しか」
「でも」
蓮司は肩をすくめる。
「残るやつは残る」
相談者は笑った。
「じゃあまあ」
ドアが閉まる。
いい人は性格じゃなく、
習慣でできていることが多い。
やめる方法は一つじゃない。
まずは反射を止めるところから。
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