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相談者は座るなり言った。
「助けてほしいやつがいるんだよ」
蓮司は顔を上げる。
「誰だ」
「友達。たぶんきつい。でも言わない」
「様子で分かるタイプか」
「分かる。前より笑わないし、遅刻増えたし、帰るの早いし、既読遅いし」
「観察しすぎだな」
「見えるんだよ」
相談者は指先で机をなぞる。
「たぶん限界近い。でも“大丈夫”しか言わない」
「で、助けたい」
「助けたい。でも無理」
「何が」
「踏み込むと嫌がる。深い話になると話題変えるし、聞くと笑うし、“平気だって”って言う」
蓮司は頷く。
「典型だな」
「放っといたら崩れそうなのに、触ると離れる」
「距離の罠だな」
相談者は少し苛立った声になる。
「助けてほしいやつほど助けられないっておかしくない?」
「おかしくない」
「逆じゃない?」
「助けられるやつは、助けてって言えるやつだ」
少し沈黙。
「俺さ」
「何だ」
「ほんとにやばいなら言うと思ってた」
「言わない」
「なんで」
「言える段階ならまだ軽い」
相談者は黙る。
「じゃあどうすればいい」
「助けようとするな」
「は?」
「支えろ」
「違いは」
「解決しようとすると逃げる。隣にいるだけなら逃げない」
相談者は納得していない顔をする。
「意味あるのか」
「ある。孤立が一番削る」
「でも何も変わらない」
「変えようとするな」
少し間。
「声かけるなら短くしろ。“最近どう?”とか要らない。“帰る?”とか“コンビニ行く?”とかでいい」
「普通すぎない?」
「普通が一番侵入しない」
相談者は息を吐く。
「助けたいんだよ」
「それが重い」
「ひどくない?」
「本音だ。助けたい顔は圧になる」
相談者は苦笑する。
「じゃあ何もしない方がいい?」
「消えるな。それだけ守れ」
「それだけ?」
「やばいやつの周りって、徐々に人減るからな」
沈黙。
「俺が最後の一人になるかも」
「その可能性はある」
「怖いな」
「だから“助ける役”になるな。“いる役”になれ」
立ち上がる。
「助けられないってさ」
「何だ」
「無力感すごい」
「正常反応だ」
ドアに手をかける。
「崩れたらどうする」
「そのとき初めて大人呼べ」
「遅くない?」
「それまでは本人の領域だ」
ドアが閉まる。
助けたい気持ちは正しい。
でも、踏み込める範囲は限られている。
本当にきつい人に必要なのは、
助ける人じゃなく、
消えない人だった。