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教室のドアを開けた瞬間、視線が全身に突き刺さる。昨日の夜のことを知っているわけではないはずなのに、なぜかみんなの目が自分を責めるように冷たい。遥は肩をすくめ、少し背を丸めながら席に向かう。


「おい、昨日はよく眠れたのか?」


男子の声が低く、耳にざらつくように響く。


「なんだよ、その歩き方……痛むのか?」


笑いを含ませて訊かれるたび、遥の胸が締め付けられる。無理に笑顔を作ろうとしても、膝の奥や腕の痣、背中の痛みが思い出させる。


「また変な顔してる、何で見せられるの?」


女子が茶化すように鼻で笑う。


「昨日のこと、思い出してんだろ?」


後ろの席から囁かれると、遥は肩をすくめるだけで返事をしない。


「返事ぐらいしろよ。無視とか、卑怯すぎだろ」


「ほら、見ろよ、顔色悪すぎ。気持ち悪い」


机を叩きながら、数人が順番に罵倒を重ねる。遥は視線を落とし、呼吸を整えようとするが、胸の奥の痛みが波のように押し寄せる。


「昨日の夜のこと、夢にも出てきたんじゃないの?」


悪戯っぽい笑みを浮かべて、近くの女子が言う。


「いやー、あの痕、結構痛そうじゃん。見せてみろよ」


声は軽いが、その言葉に込められた意図が冷たく突き刺さる。


「おい、動き鈍すぎだろ。そんなに痛いなら、みんなの前で泣けば?」


「えー、泣くともっと面白いのに。どうする?」


数人の笑い声に、遥は心の奥がぎゅっと締め付けられる。言葉で返すことは許されず、ただ痛みと羞恥を飲み込むしかない。


「ねぇ、笑ってみろよ。昨日の夜のことを思い出して、楽しそうに笑えよ」


「無理だろ? ほら、顔がまだ痛そうに引きつってる」


教師の声も混じる。叱るのではなく、見せしめのように指摘するその冷たさが、さらに遥の心を削る。


胸の奥で、涙が一粒落ちる。それを必死に堪えながら、遥は小さな声で呟く。


「……もう、やめてくれ……」


しかし、教室中の視線は止まらず、声を聞いた瞬間に誰かが嗤う。


「やめてくれ? それが通じるわけねえだろ」


「ほら、泣きたいんだろ? 泣けよ」


身体の痛みと羞恥が混ざり合い、胸の奥で熱いものがこみ上げる。言葉に出すことすら、恐怖と屈辱で難しい。


授業が始まっても、視線と囁きは続く。肩を叩かれ、机を蹴られ、背中に冷たい空気が触れるたび、昨日の夜の痕跡を思い出す。遥は小さく息を吐き、心を閉ざすように顔を伏せる。誰も助けてくれない。誰も、理解しようとしない。


「おい、泣いてんのか?」


「ほら、顔を上げろよ。みんなに見せろ」


嗤い声と命令が続く。遥の視界には、加害者たちの笑顔と冷たい目だけが残る。身体の痛み、心の痛み、羞恥、恐怖、すべてが絡み合い、遥はただ小さく震えるしかない。



無名の灯 番外編4

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