TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

コンビニの前で、遥は缶コーヒーを手に立っていた。人通りの中、心臓は早鐘のように打ち、手のひらは汗で湿っている。


「……遥さん?」


後ろから声がした。振り向くと、結城の弟が立っていた。相変わらず無邪気な笑顔だ。


遥は唇を強く噛んで、小さく返す。


「……ああ……」


弟はにこやかに話しかけてくる。


「また会えると思ってなかったけど、偶然だね!」


遥の胸の奥で、結城に徹底的に痛めつけられた記憶が疼く。

身体も心もまだ痺れるように痛み、逃げたくても、無視することもできない。


「……そ、そうだな……」


声はかすれ、震えている。


弟は気づかず、笑顔で続ける。


「元気そうでよかった。前会ったときは緊張してたけど、今日は少し落ち着いてるね」


その無邪気な言葉が、遥の胸を抉る。

嬉しいはずなのに、結城の顔が一瞬で脳裏をよぎる。

あの時の蹴り、踏みつけ、声を奪われた記憶——。


「……ああ……」


小さく答えるだけで、缶コーヒーを握る手に力を込める。

逃げたいのに、無理に会話を続けなければならない自分がいる。


弟は続ける。


「また、どこかで会えたらいいな」


遥は視線を落とし、わずかに頷く。

心の中では、傷と恐怖が渦巻き、ただ逃げることしか考えられない。


弟は笑顔で手を振る。

遥も無理に手を上げて応えるが、その背中の温もりと、心の奥の痛みが同時に胸を締め付けていた。





居間のソファに腰かけ、結城の弟はゲーム機を手にしていた。

テレビの画面に目を向けつつも、ふとさっきのことを口にする。


「ねえ、兄ちゃん、さっき遥さんと会った。ちょっと、変だった」


結城は冷たい目を細め、弟の声を聞きながら背筋を伸ばす。


「……何が変だって?」


声には軽い注意が混じるが、内心では怒りが芽吹いていた。弟に知られずとも、遥への苛立ちがこみ上げる。


「うん、なんか……ぎこちなくて、手とか震えててさ。話すのも少し遅くて……」


弟は無邪気に心配していた。


結城の唇がゆるりと曲がる。


「ふん……そうか」


短い返事の中に、冷たい軽蔑が滲む。弟は気づかない。


「なんかかわいそうっていうか……」


弟の声は、家族にしか見せない無邪気さで弾む。


結城は手元のコップを握りしめる。


「……かわいそう、か」


呟く声は低く、床に落ちる影のように冷たい。

弟はその言葉の重さに気づかず、明るく続ける。


「だって、なんか困ってたみたいだし」


結城は視線を弟に向ける。怒りと嫌悪が入り混じる。


(……くそっ、あいつが絡んだせいで、弟がこんなふうに……)


弟の言葉を聞くたび、遥を徹底的に痛めつけたくなる衝動が湧き上がる。


「……なるほどな」


結城は短く呟き、弟には理解したふりだけを見せる。

実際の思考は、遥への怒りと計画でいっぱいだった。

弟の無邪気な観察が、結城にとって遥を痛めつける口実そのものになったのだ。


弟は画面に目を戻し、無邪気に笑う。

結城はその背中を見ながら、次に遥に対して何をするか、冷酷に思案を巡らせていた。


無名の灯 番外編3

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

25

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚