TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

ドアを開けた瞬間、彼女は教科書と水筒を机に置いて、深く椅子に沈んだ。


「……もう無理かも」


「何が?」


蓮司は、机に頬杖をつきながら視線だけで促す。


「みんな、頑張ってますアピールがすごい」


「ほう。努力マウントか」


「うん……。テスト前とか、“昨日4時間勉強した”とか、“朝5時に起きてランニング”とか。別に悪いことじゃないのに、聞いてると息苦しくなる」


「お前もやってみりゃいいじゃん。“昨日は10時間寝ました”って」


彼女は少し笑ったけど、すぐに真顔に戻る。


「笑えないくらい、本当に疲れるんです。

努力してない自分が、ダメなやつみたいに感じて」


蓮司はペンをくるくる回しながら言う。


「まあ、努力ってのは本来見せびらかすもんじゃないからな。見せるってことは、褒められたいってことだ」


「でも……褒められたいのって、悪いことじゃないですよね?」


「悪くはない。ただ、他人の褒められたい欲に、自分の価値を引っ張られるのは無駄だって話」


彼女は少し黙って、窓の外を見た。


「……じゃあ、どうすればいいんですか」


「簡単だ。距離置く。話題そらす。聞き流す。

それでも耳に入ってくるなら――」


蓮司は口角を上げた。


「“お前、すごいな”って言って、内心は全然気にしない」


「……それ、ずるくないですか?」


「生きやすいって言え」


彼女は思わず吹き出した。


「でも、そんなふうに割り切れたら楽そう」


「楽になるよ。だって、お前はお前のペースでやればいい。誰かのアピールに付き合う義理なんかない」


少しの沈黙のあと、彼女は水筒を手に取って小さく頷く。


「……じゃあ、今度そうしてみます。笑って流す」


「おう。ついでに俺にも“すごいな”って言っとけ。努力はしてないけど」


「……言いません」


蓮司は肩をすくめて笑った。


「残念」



この作品はいかがでしたか?

19

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚