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「だから、なんで毎日待ってんだよ」
放課後の昇降口。カバンを肩に掛けた来栖が、赤くなった顔で声を荒げる。
その前に立っているのは、真っ直ぐな眼差しの天野だ。
「だって、来栖が帰るまで一緒にいたいから」
「っ……!」
簡単に言い切られて、来栖の心臓は跳ねる。
素直じゃない自分と違って、天野はいつだって真っ直ぐだ。だからこそ、余計に逃げ場がなくなる。
「バカ……っ、恥ずかしいだろ」
「恥ずかしいのは俺じゃなくて来栖だよ」
「はぁ!?」
「俺は好きな人と一緒にいたいって言ってるだけだから」
その言葉に、来栖は一瞬息を止めた。
胸の奥に突き刺さる“好き”の二文字。
耳まで熱くなるのをごまかすように、来栖は天野の腕を乱暴に引っ張った。
「……ちょっと来い」
連れてきたのは、人気のない音楽準備室。薄暗い夕陽の光だけが差し込む空間に、二人きり。
カチャ、とドアを閉めた途端、沈黙が落ちた。
「……来栖?」
「……お前、そうやって簡単に“好き”とか言うな」
「簡単じゃないよ。本気だから言ってる」
「……っ」
真正面から見つめられて、来栖はつい壁際に追い込んでしまう。
自分が相手を詰めているはずなのに、なぜか追い詰められているのはこっちだ。
「……ほんとに、俺のこと好きなのかよ」
「うん」
「毎日言ってるけど、飽きないのか」
「飽きないよ。むしろもっと言いたい」
天野は迷いなく答え、来栖の手をそっと取った。
繋がれた瞬間、心臓が喉まで競り上がる。
「……バカ」
「バカでもいいよ。来栖が好きだから」
気づけば、唇が重なっていた。
最初は触れるだけのキス。けれど来栖が拒まないのを確認すると、天野の動きは少しずつ熱を帯びていく。
「ん……っ」
思わず来栖の唇から漏れた声に、自分で驚く。
その隙に天野の舌が触れ、震えた唇をなぞった。
「ちょ、待っ……」
「やだ、待たない」
「……っ」
背中が壁に押し付けられる。制服の胸元を軽く掴まれ、逃げ場がなくなる。
熱い吐息が重なり、舌と舌が絡む感覚に、来栖の頭は真っ白になった。
「……ん、天野、もう……」
「俺、ずっとこうしたかった」
「バカ、放課後に……っ」
抗議の言葉も、次の深いキスで呑み込まれる。
首筋に指が触れる。制服の布越しに感じる体温。
全身を熱に支配されて、来栖は必死に相手の肩にしがみついた。
「……放課後の約束、これからも毎日していい?」
「……っ、もう勝手にしろ」
赤く火照った顔を逸らしながらも、来栖はその手を離さなかった。
素直じゃないくせに、心だけは正直に。