テラーノベル
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朝。
目が覚めても、しばらく布団から出られなかった。
スマホを見る。
アラームは、とっくに止まっている。
通知は少ない。
仕事の連絡が一件。
店のグループLINE。
それだけ。
昨日のことを思い返す。
高槻さん。
真瀬さん。
三崎さん。
それぞれ違う時間を過ごしたはずなのに、頭の中では一つの夜になっていた。
私はスマホを伏せる。
考えても仕方ない。
仕事は夜。
昼は私の時間。
コンビニへ行こう。
冷蔵庫は空だった。
昼過ぎ。
コンビニを出る。
袋の中には、おにぎりとサラダ、それからペットボトルのお茶。
信号待ちをしていると、隣に人が立った。
「こんにちは」
穏やかな声。
振り向く。
「あ」
思わず声が漏れた。
「こんにちは」
店の外。
昼の街。
スーツ姿のその人は、夜とはまるで違って見えた。
「お休みですか?」
「今日は夜だけです」
「そうですか」
信号が青になる。
二人で歩き出す。
急ぐ理由もない。
だから歩幅も自然と揃った。
「買い物ですか?」
「はい」
私は袋を少し持ち上げる。
「生活感ありますね」
笑われるかと思った。
でも、その人は笑わなかった。
「そういうところを見ると安心します」
「安心?」
「店では、生活が見えないでしょう」
私は少しだけ考える。
確かにそうだった。
店では、仕事の顔しか見せていない。
「そうですね」
「こうして昼に会うと、普通の人なんだなと思います」
少し可笑しくなる。
「普通ですよ」
「ええ」
その人は頷く。
「知っています」
そこで会話が切れた。
気まずくない沈黙。
信号を渡りきる。
「この辺なんですね」
「はい」
「私も近くまで」
私は横顔を見る。
そういえば。
この人の仕事も。
休日も。
何も知らない。
知っているのは、店で静かに話す人だということだけ。
「今日は店ですか?」
私が聞くと、
「ええ」
短く返事をする。
「少し遅い時間に」
「そうなんですね」
また夜に会う。
昼に会ったばかりなのに。
少しだけ、不思議な気持ちになる。
交差点の角で、その人は足を止めた。
「私はこっちなので」
「あ、はい」
軽く会釈をする。
「また夜に」
「また夜に」
そう言って別れた。
歩き出してから気づく。
名前を呼ばなかった。
呼べなかった、の方が近いかもしれない。
昼の街では、
店での呼び方が少しだけ照れくさかった。
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コメント
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寺島あおいです🤍 第49話、拝読しました。昼の街で交わした何気ない会話が、夜の店の空気と重なってじんわりと沁みましたね。 「生活感がありますね」に「そういうところを見ると安心します」と返す台詞がとても好きです。向こうの「普通の人」という見方も、こちらの「名前を呼べなかった照れくささ」も、距離感が絶妙でリアルでした。 昼と夜で変わる関係のグラデーション、丁寧で美しかったです。次の夜が気になります🌷