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翌週、三国怜央は会議室へ呼び出された。
室内には、営業部の部長と融資課長が並んで座っている。
ただならぬ空気を感じ取り、勘の鋭い怜央は胸の奥がざわついた。
「三国君……西園寺さんの融資の件なんだが、君に渡した融資提案書の数値が、融資課長が作成したものと一部違っていてね。――君、まさか数値を改ざんしたのか?」
怜央の心臓が跳ねた。
あの細工に西園寺側が気づくとは思っておらず、動揺が隠せない。
「いっ、いえ……」
部長は眉を吊り上げ、険しい表情で続けた。
「おかしいねえ。私も確認したが、明らかに数値が違ってたぞ。なあ、融資課長」
「はい。宇宙開発事業に関わる融資案件ですから、かなり厳しめに評価を出したつもりです。しかし、提出された書類では部品の調達コストがゆるくなっている。それに保険料の数値も……。数値を改ざんできるのは、書類を届けた三国さん以外に考えられません」
「……」
「この件は、西園寺社長から直々に指摘があったんですよ。宇宙関連には失敗がつきものです。我々銀行側も、一度で成功するとは思っていません。当然、複数回の失敗を前提に融資額を決め、綿密な返済計画を立てている。それを勝手に改ざんするなど、もってのほかです!」
「……」
「ということだが、何か言いたいことはあるかな?」
二人はすでに怜央を完全に疑っていた。
営業担当が融資提案書を改ざんする可能性は極めて低い。融資案件には専門的な知識が必要で、畑違いの部署の人間には扱いきれないからだ。
しかし怜央は過去に融資課に所属しており、書類にも精通している。
だからこそ、彼が改ざんしたと考えるのは自然だった。
「え、えっと……あっ! も、もしかしたら、勉強のためにコピーした際、書類を取り違えてしまったかもしれません」
その言葉に、部長と融資課長が驚いた表情を浮かべた。
「コピーだと? 取引書類は個人で複製して所持すること自体、厳禁だろう! それなのになぜそんな真似をした! しかも契約書類は極秘情報だ。理由を聞かせてもらおうか」
顧客の書類をコピーして持ち歩くなど、個人情報保護の観点からも言語道断だ。
「す、すみませんっ……。私が受け持った過去最大の取引だったので、今後の参考になると思ってつい……。本当に申し訳ありません!」
怜央は、“西園寺司を追い落とすため”とは言えず、苦し紛れの嘘をついた。
しかし二人は納得していない。
「では、コピーのついでに数値を改ざんしたというのは、なぜだ?」
「たしかに。保存するだけなら数字をいじる必要はありませんからね」
「まさか、西園寺コンチェルンをはめようとしたのか!」
部長の推理が図星だったので、怜央の額に汗が滲む。
「そっ、そんなつもりはありません! 本当に個人的な資料にしようと思っただけです! まったく同じ書類だとまずいと思って、一部を変えただけで……」
「本当かねえ。信じられないな」
「そうですよ。相手はうちが取引している最大手の会社なんですから、こんなミスは許されません!」
(おかしい……。一番目につきにくいところを改ざんしたはずなのに、なぜバレた? 無能な世襲御曹司には絶対に気づかれないと思っていたのに……なぜなんだ……)
怜央は今回の細工に絶対の自信を持っていた。
金融機関の人間でなければまず見落とす数値――そう確信していたからだ。
疑念が膨らみ焦った怜央は、立場も忘れて部長に尋ねた。
「数値の違いには、誰が気づいたんですか?」
「もちろん、西園寺社長だよ。社長自ら連絡してきたからな」
融資課長が続けた。
「正確には、CFOの今村さんだ。まさか、CFO自ら我々の書類をチェックしていたとは……たまげましたよ」
「本当に、いい恥をかかされた。この件で取引を切られたらただではすまないぞ。うちにとっては大損害だ。いいか! 午後から先方に謝りに行くから、お前も来い!」
「はっ、はいっ!」
「では、よろしくお願いしますね」
「融資課長、お手を煩わせて申し訳なかったね」
「いえ。では私はこれで」
融資課長は怜央に冷ややかな視線を投げると、静かに会議室を出て行った。
「本当に申し訳ありませんでした」
怜央はもう一度、部長に深く頭を下げた。
しかし部長は怜央を睨みつけたまま、まだ何か言いたげだった。
「お前、いったい何を考えているんだ?」
意味がわからず、怜央は部長を見返した。
「何を、とは……?」
「しらばっくれるな。お前の身辺を調べたら、いろいろ出て来たぞ」
「えっ?」
怜央は顔面蒼白になる。
部長は呆れたように続けた。
「うちの秘書とラブホテル通い――いや、その子だけじゃない。ほかにも複数の女性と付き合っているようだな。それだけじゃない。西園寺コンチェルンのライバル会社からの接待、ギャンブルで借金まみれの私生活、消費者金融とのトラブル……まだまだあるぞ」
「!」
「お前はもう終わりだ。これまで目をかけてやったのに、恩を仇で返すなんて……救いようのないやつだ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 全部事実ではありません。何かの間違いです!」
「事実じゃない? じゃあ興信所が嘘をついてるとでも?」
「……」
怜央は言葉を失った。
自分がギャンブル依存症であること。
そのせいで消費者金融に多額の借金を抱えていること。
その弱みにつけ込まれ、西園寺コンチェルンと敵対する外国資本の会社へ情報漏洩していたこと――
すべて事実だった。
まさか銀行側に知られているとは思いもしなかった。
「部長! 違うんです、本当に誤解なんです!」
「呆れたな。自分の行いを反省もせず言い訳ばかり――お前には銀行マンとしての資格はない! いいか、一度失った信用は簡単には戻らん。お前はもうおしまいだ。近いうちに厳しい処分が下る。おそらくもう銀行員として働くことは二度とできないだろう。だから今お前にできるのは、自分から辞表を出すことだ。これが、長年お前を可愛がってきた私からの最後の助言だ。これ以上私の顔に泥を塗るような真似をしてみろ、絶対に許さないからな!」
吐き捨てるように言うと、部長は書類の束を床に叩きつけ、怒りを隠そうともせず会議室を出ていった。
その場に一人残された怜央は、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった。
コメント
21件
うわー 玲央ってすごい悪人だったのね 見た目に騙されてはいけないね やはりお義母さんの言う通り真の部分を見ないといけないね 沙夜ちゃん騙されなくて良かったね
三国怜央の悪業見事にバレましたね 数値改ざん、ギャンブル依存症、梨花だけじゃなく女性関係も酷い…とことん最低な男ですね😡上司にも嘘を着いて…司くんと今村さんを敵に回したのが運の尽きですね。もう終わりです😠 あとは…梨花!! 今村さんがどんな考えで梨花をどん底へ落とすのか…楽しみ🤭です
残〜念〜🤪いろいろやらかしてたんだね三国ー‼️ 身の丈を遥かに超えた相手に喧嘩を売るからだよ。 これでお終いだね👋 さぁ次は梨花の番↩️ 首をしっかり洗って待ってるんだよ⚔️
管野アリオ
221
#執着
猫とろ
628
瑠璃マリコ
35,853
桃下結衣
274