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黒板には今日のテーマが大きく殴り書きされていた。


「質問タイム」


「ルール簡単。俺らが順番に質問する。答えられなかったら減点。サボったら……どうする?」


「日下部で実演!」


一斉に笑いが弾ける。


遥の心臓が跳ねた。机の下で握った拳は湿って冷たい。


最初の質問が飛ぶ。


「じゃあ一問目。お前が“いちばん恥ずかしかった瞬間”は?」


「……」


「言えねえのか? あーあ、減点か。呼んでくる?」


「……トイレで……閉じ込められて……パンツ、取られて……」


笑い声。誰かが机を叩いてカウントする。


次。


「二問目。家でいちばん嫌だったこと」


「……」


「早くしろよ。じゃなきゃ、日下部呼ぶぞ」


「……浴室で……押さえつけられて……頭、沈められて……息できなくて……」


教室がざわつく。面白がる目が遥を射抜く。


「三問目。“お前が女だったらよかった”って言われたことあるか?」


「……ある」


「誰に?」


「……晃司」


「おーい、爆弾きたぞ!」


ひゅーひゅーと口笛。遥の耳が熱くなる。


「四問目。触られたとき、どう思った?」


「……っ」


「黙るな。日下部呼ぶぞ。お前の代わりに答えさせりゃいい」


「……気持ち悪かった。……でも、怖くて声……出せなかった」


質問は止まらない。


「五問目。泣いたか?」


「……泣いた」


「六問目。声出したらどうされた?」


「……笑われた。……余計、押さえられて……」


筆記用具を走らせる音がする。誰かが得点表に「+3」と書き込む。


「七問目。今までで一番死にたいって思ったのはいつ?」


「……」


「ほら、言えよ」


「……ベランダから……落ちたら楽かなって……思ったとき」


一瞬、教室が静まる。

だがすぐに笑いが起きた。


「やべえ! ほんとに言っちまったよ!」


遥は歯を食いしばる。だが涙は出ない。

心がすでに麻痺しているのか、それとも、ただ乾いているのか。


最後に一人が締めの質問を投げた。


「じゃあ八問目。日下部に、これだけは知られたくないこと、言え」


その名を出された瞬間、息が止まった。


「……それは……」


「ほら、早く」


「……全部……知られたくない……」


「雑だなあ! 減点だな!」


「じゃあ日下部に試すか?」


遥は慌てて叫んだ。


「違う! ……いちばんは……俺が……弱くて……何も、守れないってこと……」


沈黙が落ちたあと、今度は爆発的な嘲笑が広がる。


「守れない! カッコつけてこれかよ!」


「マジで点入るわ!」


黒板に「今日のトップ:質問係A」と書かれる。


遥は机に爪を立て、震える声で自分にだけ聞こえるよう呟いた。


「……もういい。俺が全部言うから……だから……日下部だけは……」



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