葉月は、仕方なく口を開いた。
「えっと…だから、合コンの相手とは、その後どうなったの?」
「何かと思ったら、そんなこと? あれ以来、何もないよ。あの日食事をして、それっきりだから」
「そうなんだ」
「気になってることは、それだけ?」
「……今の住所を、知ってるの?」
「誰が?」
「合コン相手の女性」
葉月は、賢太郎の目を見ずに質問する。
緊張で喉がからからだ。
「知るわけないでしょ。住所は教えてないし」
「ふーん……」
「葉月! 言いたいことがあるなら、はっきり言って!」
「今日、会ったのよ」
「会った? 誰に?」
「合コンの時、あなたの前に座っていた子。この近くでね」
「え?」
「住所も知らないのに、どうしてここにいるの?」
「…………」
賢太郎は、困惑した表情を浮かべていた。
「偶然としか、考えられないな……」
「偶然? だってあの人、『シーサイドグラン湘南はどこですか?』って、はっきり私に聞いたのよ」
「…………」
まったく心当たりのない賢太郎は戸惑っている。
「隣に住むって決めたのは、たしか合コンの後だったはず。あ、待てよ! もしかして、あいつか?」
賢太郎は携帯を取り出すと、いきなり誰かに電話をかけ始めた。
電話はツーコールで繋がったので、賢太郎はスピーカーモードにして、葉月にも聞こえるようにした。
「もしもし、弘毅(こうき)?」
「おお、賢太郎どうした?」
「ちょっと聞きたいんだけど、俺が今住んでる場所って誰かに教えた?」
「いきなりなんだよ」
「だから、俺の住所を誰かに教えたかって聞いてんの!」
「ああ……安奈(あんな)ちゃんに教えたよ」
「え? 何で教えた?」
「だって、泣いて頼まれたから」
「ハァッ? 個人情報を勝手に教えるなよなー」
「悪い悪い! でも、お前、今フリーだって言ってたから、大丈夫かなーと思ってさ」
「だからって、勝手に教えるなよ」
「だってさぁ、安奈ちゃんの親父、相洋電鉄の社長だぞ? だからお前のためになるかなーって思ったんだよ」
「あー、余計なことを……」
「まずかったのか?」
「彼女、留守中にマンションに来てたみたいなんだ」
「マジか!」
「とにかく、今後は俺の個人情報を、勝手に他人に教えるなよ!」
「わ、わかった……本当に悪かった」
「頼んだぞ。じゃあ、またな」
二人の会話を聞いていた葉月は、少し安堵していた。
(なんだ。自分から教えたわけじゃないんだ)
電話を切った賢太郎は、葉月に言った。
「俺が、嘘をついてないってわかった?」
「わかった……」
「じゃあ、俺を信じてくれる?」
「信じるわ……でも…」
「でも、何?」
「彼女、相洋電鉄の社長令嬢なんでしょう? いいの?」
葉月の何気ないひと言が、賢太郎に火をつけた。
「葉月は、お仕置きをしないとわからないみたいだな……」
そう呟くと、賢太郎は葉月をソファーへ押し倒した。
そして、真剣な表情で葉月を見つめながら言った。
「俺は、今、誰と付き合ってる?」
「え、えーっと、私?」
「そう。航太郎にも宣言したよね? だから、俺の今の彼女は、葉月、君だ」
「そ、そうね……」
「だから、葉月はもっと自信を持って! 年上とか子持ちとかで自分を卑下するんじゃなく、堂々と俺の恋人として振る舞ってほしい」
「は……はい……」
あまりにも力強く説得力のある口調に押され、葉月は素直に返事をした。
それを聞いた賢太郎の表情が、柔らかくなった。
「俺がどれだけ我慢してるか、わかってるの?」
「我慢? 何を我慢してたの?」
「もちろん、葉月に触れることだよ。航太郎の前では、抱き締めたくても抱き締められないからなぁ」
いつものように甘く優しい声色に戻った賢太郎は、葉月の耳元でそう囁いた。
微笑むと目尻にできる皺が妙に色っぽい。
それを見た瞬間、葉月の心臓がドクドクと高鳴る。
「今夜はもう離さないからな」
賢太郎は葉月に優しく唇を重ねた。
いきなりキスをされた葉月は、全身がとろけそうになる。
(あっ……なんて優しいキス……)
その心地良さに溺れながら、葉月は無意識に賢太郎の背中に手を回していた。
それに気づいた賢太郎は、次第に激しいキスへと変化させていく。
(あぁっ……溺れちゃう……)
「葉月、力が入ってるよ……力を抜いて……」
「んっ……」
意識して力を抜こうと頑張っている葉月の身体を、賢太郎がギュッと抱き締めた。
そこからは、賢太郎のめくるめくような愛撫が続いた。
葉月は、それを必死に受け止めながら、息をするのが精一杯だった。
「あんっ…….やぁんっっ……」
「やじゃないでしょう?」
賢太郎の声はかすれ、葉月の耳元にセクシーに響いてきた。
「ここじゃ……ダメよ……外から見えちゃうわ……」
庭に面した窓は、カーテンを閉めていなかったので、葉月は外に丸見えなのが気になって仕方がなかった。
「じゃあ、俺のベッドへ行こっか?」
賢太郎はソファーから降りると、逞しい腕で葉月を抱き上げた。
「キャアッ!」
ぐらりと身体が傾いたので、葉月の口からは女らしい声が漏れる。
その声に刺激され、健太郎が葉月の唇を塞ぐ。
「んっ……」
賢太郎にキスをされたまま部屋を移動すると、葉月はベッドに横たえられた。
そして、ベッド脇でTシャツを脱ぐ賢太郎の姿をじっと見守る。
筋肉質の厚い胸板が見えたとき、葉月は思わず眩暈がしそうだった。
(今から、あの若い肉体に抱かれるんだわ……)
葉月が誰からも愛されなくなって、かなりの年月が経っていた。
恋人同士の愛の営みは久しぶりなので、上手くできるかどうか不安になる。
その不安を見抜いたかのように、ジーンズを脱いだ賢太郎が言った。
「葉月はただ感じていればいいから。自分から何かしようなんて思わなくていいんだからね」
その言葉にホッとした葉月は、コクリと頷く。
賢太郎は素直に応じる葉月を一度ギュッと抱き締めると、再び愛撫を再開した。
賢太郎に抱かれながら、葉月の瞳には海上に輝くオレンジ色の月が見えていた。
薄雲に滲んだ月は、なんともいえず美しい。
(なんて綺麗なの……)
葉月は今まで感じたことのない、深い快感の渦に飲み込まれていった。
賢太郎のテクニックは、想像以上に素晴らしかった。
自分の方が経験豊富だと思っていた葉月は、その考えが間違いだったことに気づかされる。
そして、クライマックスを迎える瞬間、葉月は覚悟を決めギュッと目を瞑った。
ほんの少し恐怖を感じていたが、葉月が心配していることは起こらなかった。
それよりも、次々と押し寄せる深い快感の波を受けとめることに必死だった。
気づくと、葉月の頬に一筋の涙が伝っていた。
それに気づいた賢太郎が、優しく耳元で囁く。
「痛い?」
「ううん……大丈夫……」
賢太郎は、ホッとした様子で微笑むと、再び葉月に熱いキスを落とす。
唇を重ねたまま快楽の階段を昇り詰めた二人は、同時に快感の渦にその身を委ねた。
コメント
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賢太郎さんと優しいひとときが羨ましい~😳
葉月ちゃん きちんと聞けて 賢太郎様の気持ちがしっかりわかって良かったね❤️ その後は身も心も重なって❤️❤️❤️ 後は早く航太郎君に喜んでもらえるように結婚しましょうね💒
表現が美しいですね。マリコ先生、さすがです。