翌朝、目を覚ました葉月は、賢太郎の腕の中にいた。
賢太郎の肌の温かさを直に感じながら、昨夜の記憶が急に蘇る。
昨夜、葉月は、何度も賢太郎に愛された。
若さ溢れる賢太郎の欲望は、留まるところを知らず、延々と葉月を求め続けた。
もちろん、葉月はそれに応えた。
回を重ねるごとに、二人の身体はしっくりと馴染み、熱く融け合った。
互いの欲望が満たされたあと、二人はようやく眠りについた。
窓から見えていたオレンジ色の月は、いつの間にか姿を消していた。
その代わりに、葉月の目には、遠くに揺れる波の煌めきが映っていた。
こんなに夜の海が美しいとは、思いもしなかった。
再び女の悦びを知った葉月の目には、見る物すべてが新鮮に映っていた。
(恋は、見る物すべてを変えてしまうの?)
葉月は、そんな風に思いながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
そして、今、目覚めたばかりの葉月は、隣で眠る賢太郎をじっと見つめる。
(ふふっ、髭が伸びてる。まつ毛長ーい! それに彫も深くて……傍で見るとさらにイケメン…。こんな人に、私は本当に愛されたの?)
葉月は一瞬、昨夜の出来事が夢ではないかと思った。
(ううん、夢じゃない。たしかに私は彼に愛された。それも、たっぷりと愛の言葉を囁かれながら……)
葉月は、賢太郎が耳元で囁いた言葉を思い出し、思わず頬を染めた。
その時、賢太郎が身じろぎして、目を覚ました。
「葉月、おはよう……」
「おはよう」
「うーん」
賢太郎は、一度伸びをしてから口を開いた。
「大丈夫? 身体、痛いところない?」
「大丈夫。ちょっと筋肉痛なだけかな」
「それならよかった」
賢太郎はそう言って、葉月の鼻の上にチュッとキスを落としたあと、今度は唇にキスをする。
長いキスが終わると、葉月はずっと疑問に思っていたことを、賢太郎に聞いた。
「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」
「ん? なあに?」
「いつから私に好意を持ってくれてたの?」
思いがけない質問に賢太郎は驚いたが、すぐにこう答えた。
「事故報告の電話の時からかなぁ」
「え? 嘘……」
「ほんと」
「だって、あのときは電話で話しただけよ。それなのにどうして?」
「あの日俺はさぁ、超疲れてげっそりしてたんだ。テレビ番組の収録をまとめて撮ったあと、企業と契約した撮影も立て込んでてさ……クタクタのまま、あの事故現場にいたんだ」
「そうだったんだ……」
「そう。そこへきて、車をゴツンだろう? もう気分は最悪だったよ。で、君の会社に電話を入れたの」
「うん、それで?」
「電話越しに、君は言ったよね? 『お怪我はございませんでしたか?』って。あの女神のような優しい声を聞いて、俺はやっと気が休まったんだよ」
「やだ! あれは、誰に対しても言う言葉よ」
「わかってる。でも、あのときの俺には、ものすごく特別なものに感じたんだ」
「そうなんだ……」
「そのあと、合コンで隣の席から君の声が聞こえた時、すぐにピンときたんだ。あの時の電話の人だってね。でも、いきなり話しかけたら変に思われると思って、声をかけられずにいた」
「え? 声だけで、私だってわかったの?」
「うん。君の声は忘れないよ……」
「…………」
「それから、あのあとまた、偶然踏切で再会しただろう?」
「うん」
「あのときは運命を感じたよ。もう絶対に君を逃さないって心に誓った!」
「え? じゃあ、隣のマンションは?」
「あれは、もともと知人が使っていいよって言ってくれて見に行ったんだけど、断るつもりだったんだ。でも、君に再会して、やっぱり借りることに決めたの」
「そうなんだ……」
「だから、知人には感謝しないとな」
「ふふっ、そうね。本当にすごい偶然!」
「知ってる? 偶然は必然だって。だから、俺たちは最初からこうなる運命だったんだよ」
そこで、賢太郎はギュッと葉月を抱き締めると、逞しい肉体を彼女に押し付ける。
その瞬間、賢太郎の硬く漲ったものが、葉月の太腿に当たった。
(あ……すごい……)
葉月がそう思うよりも早く、賢太郎が葉月の唇を塞いだ。
次に二人が目を覚ましたのは、葉月がセットした目覚ましの音だった。
賢太郎は目を覚ますと、こう呟いた。
「そっか、葉月は今日も仕事だったね」
「うん、ゆっくりできなくて、ごめんね」
「いいよ。先にシャワーを浴びておいで。俺は後でいいから」
「ありがとう。じゃあ、お先に!」
ベッドから出ようとすると、すかさず賢太郎は葉月を引き寄せキスをする。
「ふふっ、時間がなくなっちゃうわ」
「仕方ないな……解放してあげるか」
葉月は、名残り惜しそうな賢太郎に微笑むと、バスルームへ向かった。
シャワーを浴びて軽くメイクをし、葉月はリビングへ向かった。
部屋に入ると、ふわりと漂うコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
テーブルには、目玉焼きとソーセージ、それにレタスとトマトが盛られた皿が置かれていた。
「え? 作ってくれたの?」
「冷蔵庫の中のもの、勝手に使ったよ」
「うわー、ありがとう。昨夜の食器も片付けてくれたの?」
「うん。適当に食洗器の中に突っ込んでおいた」
「ありがとう。助かるー」
「疲れてるだろうし、ゆっくりしてから出勤したら? コーヒーも、おかわりあるよ」
「ありがとう」
葉月は、至れり尽くせりのこの状況に、なんとなく気恥ずかしさを覚えた。
二人はテレビのニュースを見ながら、ゆっくりと朝食をとった。
食べ終えると、賢太郎が片付けも申し出てくれる。
「出掛ける支度をしておいでよ。車で送るから」
「え? いいの?」
「もちろん。ここからだと20分くらい? 渋滞してたら困るから、30分前には出た方がいいかな?」
「ありがとう」
時間になると、二人は玄関へ向かった。
靴を履いて葉月がドアを開けようとしたとき、賢太郎はもう一度葉月を抱き寄せた。
「うーん、やっぱり行かせたくないなー」
「駄目よ、行かなくちゃ」
「わかってるけど、離したくない」
賢太郎はそう言ってから、葉月にキスをする。
「ふぅんっ」
名残惜し気に唇を離した賢太郎は、こう呟いた。
「ああ、マジで行かせたくない」
「もう行かないと、遅刻しちゃうわ」
「うーん、じゃあさ、今日の夕飯は俺が作るよ」
「え? いいの?」
「うん。その代わり、食事を終えたら、すぐベッドね」
「なんだ、そういう魂胆か!」
葉月は思わずクスクスと笑った。
そこで賢太郎は葉月の頬にチュッとキスをする。
「しょうがない、そろそろ行くとしますか! 車、持ってくるから待ってて」
「うん」
外へ出た葉月が鍵をしながら返事をすると、賢太郎はマンションに停めてある車へ向かった。
そのとき、突然女性の甲高い声が響いた。
「あっ、桐生さんっ! おはようございます!」
「?」
二人が驚いて声の方を見ると、そこには賢太郎の合コン相手の女性・長谷川安奈(はせがわあんな)がいた。
安奈は、昨日、葉月に賢太郎のマンションの場所を聞いた女性だった。
コメント
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これは仕事どころじゃない!!
杏奈さん ストーカーはやめましょう‼️犯罪行為ですよ💢 運命に導かれた賢太郎様と葉月ちゃんの邪魔はしてはいけません‼️ 二人の甘い朝を邪魔するとは許せないです💢💢
熱くロマンティックな夜から~ 甘々な朝を迎え....💏💝☕️🍞🌄🌊💕 ラブラブでご出勤&お見送りのはずが、合コン ストーカー女の出待ち😱😱⁉️ 朝から待ち伏せって怖すぎる~((( ;゚Д゚))) 賢さまがどう退治してくれるか、明日が楽しみです👊😠