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「休んでるはずなんだけどさ」
そう言ってから、言葉が途切れた。
日下部は急かさない。椅子に背中を預けて、続きを待つ。
「何もしてない時間があると、焦る」
視線が落ちる。
スマホを触っているだけの時間、ぼんやり天井を見ているだけの時間。
それらが頭の中で、全部「怠け」に分類されていく。
「別にサボってるわけじゃないって、分かってるのに」
日下部は少し考えてから言った。
「……それ、“休めてない”ってことじゃね?」
「え」
「体は止まってるけど、頭がずっと評価してる」
その言い方に、思わず息を詰める。
「今の時間、意味あるか。
将来に繋がるか。
他のやつは、もっと頑張ってないか」
日下部は指を折りながら続けた。
「それ、休憩中にやる作業じゃないだろ」
「でも、止めると不安になる」
正直な声だった。
何も考えないと、置いていかれる気がする。
日下部は小さく頷く。
「分かる。俺もそれある」
「……日下部も?」
「あるある。寝てても罪悪感あるとき」
少しだけ笑ってから、真面目な顔に戻る。
「多分さ、もう“頑張ってない自分”を許可してないんだと思う」
その言葉が、静かに刺さる。
「何かしてないと、価値が下がる気がする」
「うん」
否定されなかったことで、胸が少し苦しくなる。
日下部は続けた。
「でもさ。評価される前提で生きるの、しんどくね」
「……しんどい」
即答だった。
「誰にも見られてない時間まで、テストみたいになる」
沈黙。
日下部は天井を見上げる。
「休むって、本当は“回復”なのにさ」
「うん」
「今は“怠慢”に変換されてる」
その言葉で、今まで感じていた違和感に名前がついた気がした。
「じゃあ、どうしたらいい?」
日下部は少し困った顔をする。
「正解は知らない」
正直な言い方だった。
「でも、せめてさ。何もしてない時間に
“今は役に立たなくていい”って言ってやれ」
「自分に?」
「うん。他に言ってくれるやつ、いないだろ」
その言葉は優しすぎず、突き放しもせず、ただ現実的だった。
「……難しいな」
「知ってる」
日下部は肩をすくめる。
「だから一気に許さなくていい。五分でいい」
「五分」
「五分、無価値でも生きていい時間」
少しだけ、胸の奥が緩む。
「それでも不安になったら?」
日下部は即答しなかった。
少し考えてから言う。
「不安なままでいい」
「え」
「不安が出るってことは、止まれたってことだから」
その言葉は、妙に現実味があった。
完璧な救いじゃない。
でも、続けていけそうな考え方だった。