テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#読み切り
相談者は椅子に座るなり言った。
「俺だけ、ストーリーに写ってない」
蓮司は少し首を傾ける。
「遊んだ?」
「遊んだ」
「何人」
「四人」
「楽しかった?」
「普通に」
少し間。
「飯食って、プリ撮って、カラオケ行って」
「典型的だな」
「だろ」
相談者はスマホを机に置く。
「で、帰った」
「そのあと?」
「夜」
「ストーリー上がり始める」
蓮司は黙って聞く。
「最初は普通。
飯の写真、カラオケ、プリ」
相談者は画面を軽く叩く。
「ここまではいい」
「問題は?」
「人物」
「写ってた?」
「写ってた」
「三人」
沈黙。
「お前は?」
「いない」
「偶然じゃない?」
「思った」
「でも」
相談者は苦笑する。
「何枚もある」
「全部?」
「全部」
静かになる。
「同じ場所にいたのに」
「そう」
「同じ時間に」
「そう」
「なのに」
相談者は言う。
「いない」
蓮司は少し考える。
「写真撮るとき離れてた?」
「いや。普通に横」
「じゃあ?」
「カットされてる」
少し笑う。
「トリミング」
蓮司は短く息を吐く。
「なるほど」
相談者は続ける。
「一枚なら気にしない」
「でも」
「全部」
沈黙。
「なんかさ」
「何」
「自分がいた時間が」
少し言葉を探す。
「なかったことみたい」
蓮司はゆっくり言う。
「SNSは記録じゃない」
「……?」
「演出」
相談者は顔を上げる。
「演出?」
「見せたい形に編集する。
つまり都合のいい現実」
相談者は少し考える。
「じゃあ、俺が邪魔?」
「そうとは限らない」
「じゃあ何」
「単に“映えない”」
相談者は笑う。
「雑」
「でもよくある」
蓮司は続ける。
「三人の構図が良かった。
四人だと画面が散る。
だから切る」
相談者は腕を組む。
「それでも、地味に刺さる」
「わかる」
少し静かになる。
「あと」
相談者が言う。
「もう一個ある」
「何」
「その三人」
「うん」
「コメントで盛り上がってた」
「お前は?」
「何も書けなかった」
蓮司は少し笑う。
「そりゃ書きづらい」
「だろ」
「“楽しかったね!”って写ってないやつが?」
相談者も笑う。
「ホラー」
沈黙。
「でもさ」
相談者は言う。
「その場では普通だったんだよ。
普通に笑って、 普通に喋って。
だから」
少し声が小さくなる。
「余計わかんなくなる」
蓮司は言う。
「SNSは距離を拡大する」
「拡大?」
「その場の温度差。あとから見える」
相談者はスマホをしまう。
「便利だな」
「残酷だけど」
椅子から立ち上がる。
「まあ」
「何」
「次は写りに行くわ」
蓮司は肩をすくめる。
「それも一つ」
相談者はドアで止まる。
「でもさ」
「ん?」
「写るかどうかで」
少し笑う。
「立ち位置、分かるな」
蓮司は答えない。
SNSは、現実をそのまま残す場所ではない。
誰を残すか、誰を切るか。
その小さな編集が、人間関係の温度をはっきり見せることがある。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!