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相談者は座ってから、すぐには話さなかった。教室の窓の外を見るみたいに、どこか遠いところを見ている。
「クラスでさ、自分がどこにいるのか分からなくなる時がある」
蓮司は急かさずに聞く。
「グループは一応あるんだろ」
「あるっちゃある。でも、“そこにいる”っていうより、“たまたま混ざってる”感じ」
相談者は少し笑うが、軽さはない。
「呼ばれたら行くし、話しかけられたら普通に話す。でも、自分から行くことはあんまりない。だから外れてるわけじゃないのに、どこにも属してない気がする」
「孤立してるわけでもないのに、居場所がない」
「それ。まさにそれ」
机に指を置いたまま、少しだけ力が入る。
「昼休みとか一番わかる。今日は誰のとこ行くかで迷うし、どこ行っても“ちょっと違う”感じがする。輪の中にはいるけど、中心じゃないし、かといって外でもない。ずっと端に立ってる感じ」
蓮司は静かに頷く。
「移動教室も地味にきつい。自然にペアとかグループができていく中で、自分だけタイミング遅れると、そのまま後ろについてくしかない」
「誰かが“来いよ”って言うわけでもない」
「そう。無視されてるわけじゃないのに、選ばれてもいない」
短い沈黙が落ちる。
「別にいじめられてるわけじゃないし、嫌われてる感じもない。でも、安心していられる場所もない。だからずっと周り見てる。“ここにいて大丈夫か”って確認しながら動いてる感じ」
蓮司は少しだけ背もたれに寄りかかる。
「固定の場所がないやつは、毎回自分で位置を選ぶことになる。それがしんどいんだろ」
「正直、それだと思う。全部自分で判断しないといけないから、外したときが怖い」
相談者は息を吐く。
「でもさ、固定グループのやつらはやつらで安定してるように見えるんだよ。ああいうの、楽そうに見える」
「外からはな。中に入ると別のしんどさがある」
「例えば?」
「グループの中での立ち位置が固定される。上と下、空気読む役、いじられる役。抜けにくいし、変えにくい」
相談者は少し考えてから、小さく頷く。
「……ああ、それは見たことある。楽しそうに見えても、なんか無理してるやついる」
「お前はそこにいない分、自由ではある」
「自由って言われても、実感ないけどな」
「自由って大体そういうもんだ」
少しだけ空気が緩む。
「じゃあ結局、どうすればいいんだろうな。どこにもいない感じ、このまま続くのもしんどい」
蓮司は少しだけ考えてから言う。
「クラス全体で居場所を作ろうとするから曖昧になる。一個でいい。ここなら楽だって場所を決めろ」
「それ、クラスじゃなくてもいいのか」
「いい。むしろ無理にクラスに限定しないほうがいい」
相談者は視線を上げる。
「……あるかもしれない。図書室とか、放課後のあの空いてる時間とか」
「それで十分だ」
相談者は少しだけ笑う。
「全部に居場所作ろうとしてたかもしれない。どこでもうまくやろうとして、どこにもちゃんといなかった感じ」
立ち上がって、ドアの前で一度止まる。
「クラスでの立ち位置って、無理に決めなくてもいいのかもな」
蓮司は短く答える。
「一個あれば崩れない」
人は、どこか一つでも「ここなら力を抜ける」と思える場所があれば、
全部の中でうまくやろうとしなくても、立っていられる。