テラーノベル
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真白は、珍しく何もしていなかった。
ソファに腰を落とし、スマホも触らず、テレビもつけない。
ただ、窓の外を見ている。
アレクシスが帰ってきたとき、その様子に一瞬だけ足を止めた。
「……どうしたの?」
「何も」
「“何も”のときの顔じゃない」
「顔に出てる?」
「ちょっと」
真白は肩をすくめた。
「仕事?」
「仕事じゃない」
「じゃあ、人?」
「……近い」
アレクシスは上着を脱ぎながら、距離を詰める。
「何か言われた?」
「言われたというか、言われてないというか」
「分かりにくい」
「そういう話」
真白は一度、言葉を飲み込んでから続けた。
「“余裕そうだよね”って言われた」
「誰に?」
「同僚」
「褒め言葉じゃない?」
「本人はたぶん」
「でも?」
「余裕って、空いてるって意味にも聞こえる」
アレクシスは少し考える。
「真白は、空いてる?」
「空いてない」
「見せないだけ?」
「うん」
「それが伝わらないの、嫌?」
真白は即答しなかった。
少し間を置いて、静かに言う。
「嫌というより、雑に扱われる」
「雑?」
「軽く見られる」
声は落ち着いているのに、言葉は鋭い。
「ちゃんとやってるかどうかじゃなくて、“大変そうかどうか”で判断される」
「……あるね」
「大変そうにしてないと、頑張ってない扱い」
真白は膝の上で指を組む。
「感情を外に出さないと、存在しないみたい」
アレクシスは黙って聞いている。
「俺、別に評価されたいわけじゃない」
「うん」
「でも、いないみたいにされるのは違う」
「真白は、ちゃんといる」
その言葉に、真白は一瞬だけ視線を上げた。
「知ってる」
「ならいい」
「でも」
真白は小さく息を吐く。
「たまに、全部説明したくなる」
「説明?」
「俺は余裕じゃない。平気でもない。考えてないわけでもないって」
「言えばいいのに」
「言ったら、負けた気がする」
「誰に?」
「……分かんない」
自分でも曖昧な敵。
だから余計に厄介。
アレクシスは真白の隣に座る。
「真白は、余白がある人に見える」
「余白?」
「詰め込みすぎない感じ」
「それ、褒めてる?」
「ちゃんと」
真白は少し考えてから言う。
「余白、勝手に使われるのは嫌」
「じゃあ?」
「自分で使う」
「何に?」
「……休むとか」
その答えに、アレクシスは微笑んだ。
「それは、かなり大事」
「分かってる」
「実行が遅いだけで」
「……うるさい」
真白は少しだけ尖った声を出してから、すぐに力を抜いた。
「でも、ここでは余白ある」
「俺がいるから?」
「……そういうことにしとく」
アレクシスは何も言わず、隣にいる。
真白はもう一度、窓の外を見る。
世界に対しては、少し尖っている。
でも、この距離では、その棘は抜いていいと知っている。
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