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朝。
キッチンで、真白はコーヒーを淹れていた。
豆を挽く音。
お湯を注ぐ音。
いい感じに、静か。
……その背後で。
「真白」
「なに」
「それ、今日いらないやつじゃない?」
真白は手を止めた。
「いる」
「在宅じゃなかった?」
「在宅だけど」
「じゃあ、なんでフル装備」
真白は自分を見下ろす。
シャツ、スラックス、腕時計。完全に外出仕様。
「……癖」
「癖で着替えすぎじゃない?」
「仕事スイッチ」
「家なのに?」
「家だから」
よく分からない理屈だが、本人は真剣だ。
アレクシスは冷蔵庫を開けながら言う。
「それで、また昼に“ちょっと休憩”って言ってソファで寝る」
「寝ない」
「前回は?」
「……目閉じただけ」
「三十分」
「休憩」
真白はコーヒーをカップに注ぐ。
「油断すると、仕事と生活が溶ける」
「もう溶けてる」
「溶けてない」
「コーヒー持って会議してた」
「合理的」
「そのまま猫動画見てた」
「……それは想定外」
真白はカップを持って、ソファへ向かう。
「今日はちゃんとやる」
「毎回言ってる」
「今日は本気」
そう言って座った瞬間、背もたれに深く沈む。
アレクシスは即座に言った。
「はい、今“休憩の姿勢”」
「まだ休憩じゃない」
「もう呼吸がオフ」
「……そんなこと」
真白は目を閉じる。
「……ない」
「今、“目閉じただけ”きた」
「きてない」
「三秒経過」
「カウントするな」
アレクシスは笑いながら、ブランケットを持ってくる。
「はい」
「だから寝ない」
「寒いでしょ」
「……それはそう」
受け取る真白。
「真白」
「なに」
「仕事、頑張るのはいいけど」
「うん」
「ちゃんと休むのも、仕事」
「それ、便利な言葉」
「実績あり」
真白は少しだけ口元を緩める。
「じゃあ」
「うん」
「五分だけ」
「三十分コースだね」
「……静かにして」
そう言って、目を閉じた。
アレクシスは何も言わず、キッチンに戻る。
判断は早い。
今日の午前は、たぶん静かだ。