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アパートの小さな部屋には、重苦しい静寂が漂っていた。
翔は布団に丸まり、肩を小さく震わせている。
食事も取らず、水もほとんど口にしていない。指先は冷たく、微かに青白く光っていた。
昴はそっと布団をめくり、手を握る。
「翔……起きて、お願い……」
声はかすれ、胸が痛む。
だが翔は目を閉じたまま、微かに首を振るだけだった。
――完全に閉じこもってしまった。
外の世界を拒絶し、俺の音しか受け付けない……
昴は胸の奥で恐怖を覚える。依存が愛情を超え、危険な領域に入り込んでいた。
「翔、無理は……」
手を握り、肩を抱き、布団を整えても、彼は応えない。
食事を差し出しても、目を逸らすだけで手を伸ばさない。
昴は息をつき、目を閉じる。
――このままでは、二人とも壊れる。
音楽で結ばれた依存が、命に関わる危険信号になっている。
だが、翔の指先が震えるのを見れば、手を放すこともできない。
指先をそっと握り、温めながら、昴は心の中で自分に言い聞かせる。
「守る……どんなに壊れても、俺たちの音を守るために」
深夜、室内の空気は冷たく凍りつき、時計の針だけが時間を刻む。
昴は布団をかけ直し、温かい飲み物を手にして座り込む。
手は震えているが、目は翔から離さない。
「頼む……少しでいい、食べて……」
声が届かなくても、昴は諦めない。
彼の心は、翔の指先と呼吸、体温に完全に絡みついていた。
翔は微かに唇を動かすが、言葉は出ない。
目を開ける力もなく、ただ布団の中で震えている。
その姿を見つめ、昴は痛みを覚えながらも、目を細めて微笑むしかなかった。
――依存も、孤独も、二人を削る痛みも、全て受け止める。
昴はそう誓いながら、翔の手を握り続ける。
凍った指先が少しずつ温まるように、自分の胸の熱を伝えるように。
夜が更けるにつれ、部屋の静寂は重く、だがどこか温かい空気も混じる。
音はない。ただ、二人だけの呼吸と、手の温もりだけが、存在を確かめ合う証だった。
昴は心の奥で悟る。
――このままでは二人とも壊れる。
だが、壊れながらでも、共にいられる限り、俺たちの旋律は途切れない。