テラーノベル
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扉を開けると、だいたい同じ匂いがする。
酒と香水と、
ちょっとだけ現実じゃない感じ。
ナナは今日もいる。
いない日もあるけど、
いる日の方が多い気がする。
いや、
自分がいる日に来てるだけか。
「早いじゃん」
席に着く前から声が飛んでくる。
軽い。
いつも通り。
「今日は暇」
「嘘つき」
「ほんとほんと」
笑うと、
向こうも笑う。
こういうやり取りが、
一番楽だ。
「最近さ、来る頻度上がってない?」
「そう?」
「上がってる」
「気のせい」
「じゃあ気のせいでいいや」
言いながら、
氷を入れる手元を見る。
手元を見てるのは、
別に意味はない。
……いや、
少しはある。
「ナナさ」
「ん?」
「俺いないと寂しいでしょ」
冗談半分。
半分くらいは本気。
「どうだろ」
「そこは即答でしょ」
「他にも来てるからね」
さらっと返される。
ダメージはない。
ないけど、
ゼロでもない。
「じゃあさ、
俺ちょっと減らしてみるわ」
「なんで」
「寂しがるか確認」
「しないよ」
「即答じゃん」
笑う。
ナナも笑う。
この軽さが、
この席のルールだ。
重くしない。
重くならない。
重くできない。
グラスを渡される。
指先が触れる。
「はい」
「どーも」
一瞬だけ、
距離が近い。
すぐ離れる。
別に特別じゃない。
他の客とも同じ。
多分。
「ねえ」
「ん?」
「今日、ちょっと静か」
「え、俺?」
「うん」
「そんな日もある」
ほんとは、
少しだけ様子を見てる。
誰を見るか。
どの席に長くいるか。
誰に笑うか。
見ても意味ないのは分かってる。
ここはそういう場所だ。
それでも、
気になるくらいには、
来てる。
「なに飲む?」
「同じので」
「了解」
名前を呼ばれる。
いつもの呼び方。
分かってる。
仕事だって。
それでも、
ちゃんと覚えられてる感じがして、
少しだけ嬉しい。
単純だな、と思う。
自分でも。
「また来るわ」
「うん、待ってる」
待ってる。
仕事の言葉。
営業の言葉。
分かってる。
分かってるけど、
次も来る理由にはなる。
別に、
特別になりたいわけじゃない。
……いや、
ちょっとはあるか。
でも、
それを言うほど
重くもなれない。
軽いままで、
少しだけ長くいる。
そのくらいが、
ちょうどいい気がしている。
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