テラーノベル
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相談室のドアがゆっくり開く。
「失礼します」
日下部は顔を上げる。
「どうぞ」
生徒は席に座るけれど、すぐには話さない。
少し沈黙。
「変な相談なんですけど」
「大体そうだ」
生徒は机を見る。
「友達がいるんです」
「うん」
「悪い人じゃないんです」
「うん」
「むしろ、いい人で」
言葉が止まる。
「でも」
小さく息を吐く。
「一緒にいると、ちょっと疲れる」
日下部は黙って聞く。
「嫌いじゃないんです」
「うん」
「でも、会う前にちょっと構える」
沈黙。
「それ、向こうは気づいてると思う?」
「……たぶん」
「罪悪感あるか」
「あります」
即答。
「悪いことしてる気がして」
静か。
日下部は少し考える。
「相手は何かしてくる?」
「してない」
「否定してくる?」
「してない」
「じゃあ何が疲れる」
生徒は考える。
「距離が近いんです」
ぽつりと言う。
「連絡も多いし」
「うん」
「会う頻度も高くて」
机を見つめる。
「向こうは普通だと思うんです」
沈黙。
「でも自分は、ちょっと息が詰まる」
日下部は短く言う。
「容量の差だな」
「容量」
「人が近くにいて平気な量」
生徒は黙る。
「多い人もいるし、少ない人もいる」
一拍。
「少ないと、悪いことしてる気分になる」
生徒は小さく頷く。
「距離を置く=嫌い、じゃない」
静か。
「ただ、呼吸の幅が違うだけだ」
沈黙。
「でも、向こう傷つきますよね」
「かもしれない」
はっきり言う。
「でも無理して続けると、本当に嫌いになる」
教室の外で音がする。
「嫌いになる前に、少し距離取る方が長持ちする」
生徒は考える。
「わがままじゃないですか」
日下部は首を振る。
「調整だ」
一拍。
「人間関係は、距離で呼吸してる」
静か。
生徒は立ち上がる。
「……ちょっと楽になりました」
「ならいい」
ドアの前で振り返る。
「いい人でも、距離取っていいですか」
日下部は淡々と言う。
「むしろいい人ほど、距離がいる」
一拍。
「近すぎると、関係は潰れる」
ドアが閉まる。
相手が悪いわけじゃなくても、
距離が必要な関係はある。
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