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相談者は椅子に座ってから、少しだけ間を置いて言った。
「俺、“いい人”で終わるんですよね」
蓮司は視線だけ向ける。
「どういう意味だ」
「相談はされるし、話も普通にする。嫌われてる感じもない。でも、遊びに誘われることはあんまりない」
苦笑が混じる。
「距離が縮まらない」
「そう」
相談者は続ける。
「“話しやすい”とは言われる。でも、“一緒にいたい”とは言われない」
沈黙。
「それ、どこで分かる」
「放課後」
短く答える。
「気づいたら、みんなそれぞれで帰ってる。俺は、誰かに声かけるほどでもなくて、そのまま一人で帰る」
「声かけられないのか、かけないのか」
「両方」
少し間。
「断られるのも嫌だし、そもそも“誘うほどの関係じゃない”って思われてる気がする」
蓮司は言う。
「“いい人”って評価は高い」
「でも順位は低い」
相談者は即答した。
「それ、めちゃくちゃ分かる」
少し笑うが、軽くはない。
「頼まれごとは来る。ノート見せてって言われるし、相談も来る。でも、楽しいことの輪には入ってない」
「機能として使われてる感じか」
「それ」
相談者は机に視線を落とす。
「俺、便利なんだと思う。断らないし、否定しないし、空気も壊さない」
「で、都合がいい」
「うん」
静かな肯定。
「じゃあ聞く」
蓮司が言う。
「断ったことあるか」
相談者は少し考える。
「……あんまりない」
「嫌でも?」
「とりあえず受ける」
「なんで」
「嫌われたくない」
即答だった。
少し沈黙が落ちる。
「“いい人止まり”のやつって」
蓮司は言う。
「嫌われるリスクを全部避けてる」
相談者は黙る。
「否定しない、断らない、主張しない。だから安心はされる」
「でも」
「でも、“面白くない”」
言葉は静かだった。
相談者は苦笑する。
「刺さるな」
「本音だからな」
少し間。
「人って」
蓮司は続ける。
「ちょっとでも引っかかりがある相手の方が、記憶に残る」
「引っかかり?」
「意見が違うとか、断るとか、ちょっとズレるとか」
相談者は考える。
「俺、それ全部避けてる」
「だから安全で、薄い」
沈黙。
「じゃあ、どうすればいい」
「一個でいい」
蓮司は言う。
「断れ」
「それだけ?」
「それだけで変わる」
相談者は少し笑う。
「怖いな」
「そりゃな」
「嫌われるかも」
「ある」
即答だった。
少しだけ空気が止まる。
「でも」
蓮司は続ける。
「そこで離れるやつは、最初から“便利さ”で繋がってたやつだ」
相談者は黙る。
「残るやつだけが、本当に関係作れる相手」
長めの沈黙。
相談者はゆっくり立ち上がる。
「俺、いい人でいたかったわけじゃないんだよな」
ドアの前で振り返る。
「嫌われたくなかっただけだ」
蓮司は頷く。
“いい人”は、褒め言葉に見えて、距離を保つための言葉でもある。
踏み込まない人は、踏み込まれないまま終わることが多い。
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