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商店街の端の花屋は、シャッターを半分下ろしかけていた。
灯りだけが、まだ店内に残っている。
真白はその前で足を止めた。
通り過ぎるつもりだったのに、なぜか止まった。
「閉まるよ」
横からアレクシスが言う。
「見てるだけ」
「見る?」
「うん」
シャッターの隙間から、中の色が見える。
冬の花。
白と赤と、少しの緑。
店員がこちらに気づく。
「どうぞ」
まだ入れるらしい。
店内は暖かかった。
外の空気が急に遠くなる。
真白は奥まで入らない。
入口近くで止まる。
「何か買う?」
「買わない」
「じゃあ見るだけ」
「見るだけ」
花の名前はよく分からない。
でも、形と色は分かる。
白い花が一つ、バケツに入っている。
少しだけ背が高い。
「これ、何」
小さく聞く。
店員が答える。
「アネモネです」
真白は頷く。
覚えないかもしれない。
でも聞いた。
アレクシスは少し離れて見ている。
何も言わない。
「買う?」
「……一本だけ」
自分でも意外そうに言う。
店員が包む。
紙に包まれた白い花。
軽い。
外に出ると、また寒い。
息が白い。
歩き出す。
花は真白が持っている。
「飾る?」
「うん」
「花瓶あった?」
「ある」
少し沈黙。
歩幅が揃う。
「なんで買ったの?」
アレクシスが聞く。
責める感じじゃない。
真白は少し考える。
「……閉まる前だったから」
「うん」
「今しかない感じした」
それだけ。
十分だった。
信号で止まる。
赤い光。
花の白が、街灯に照らされる。
夜の中で少し浮く。
「似合うね」
「何が」
「持ってるの」
真白は少しだけ顔をしかめる。
「そういうのいい」
「でも似合う」
「……うるさい」
青になる。
歩き出す。
家までの道。
特別なことはない。
ただ、一本の花を持って帰る。
それだけで、夜が少し変わる。
玄関の前で、真白が言った。
「水、替えるの俺やる」
「うん」
「枯れたら捨てる」
「うん」
ドアを開ける。
暖かい空気。
花はまだ白い。
しばらくは、このままだ。