テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
放課後、相談室のドアが勢いよく開いた。入ってきたのは、髪をひとつに結んだクラスメイトの女子。
手にはプリントの束を抱えている。
「ねえ遥、聞いて」
「なんだよ」
「進路希望調査、もう出せって。第一希望どうしよう」
「知らねぇよ」
女子はわざとらしくため息をつく。
「だってさ、将来やりたいことなんてないし。親は看護師になれって言うし」
「やりたくないの?」
「……血見ると倒れる」
「それ、致命的じゃん」
思わず遥が笑うと、女子も少し笑った。
「じゃあ何ならできそう?」
「ないってば。勉強も部活も中途半端だし」
遥は机にもたれ、天井を見上げた。
「……俺もさ、夢とかねぇよ」
「そうなの?」
「毎日生きるだけで精一杯なのに、十年後とか考えられるかよ」
女子は少し黙ったあと、くすっと笑う。
「じゃあ遥の第一希望は?」
「……とりあえず生き残る」
「それ、書けないでしょ」
「書けないけど……ほんとそれが最優先」
遥は少し笑いながらも、視線は机の木目をなぞっていた。
女子は肩の力を抜き、「じゃあ私も、とりあえず死なないで済むやつにしよ」
そう言って、プリントを抱え直す。
彼女がドアを閉めたあと、遥はひとりごちた。
――生き残るのが第一希望って、本当は冗談じゃないんだけどな。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!