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昼休み。教室の空気がざらついていた。机を寄せ合った数人のグループの中心に、遥が立たされている。
彼の席の周りだけが、ぽっかりと空白のように広がっていた。
笑いをこらえる気配、スマホを構える手、無邪気な残酷さの匂い。
「なあさ、思ったんだけど」
誰かが言った。
「遥ルール作らね? どうせいるなら、退屈しないようにしてもらおうよ」
教室のあちこちから笑いが起きた。
“ルール”という言葉が、すでにその場の遊びになっていた。
「まずさ、話しかけられたら五秒以内に返事ね」
「無視したらアウト。アウトになったら次の日“土下座”で授業」
「あと、あいづち禁止。“うん”とか“はい”とか言うと減点」
「意味わかんねえ」
「いや、そいつ普段から無言じゃん」
「だからだよ。無言でいたら減点されるルールとか可哀想だろ?」
遥はただ、立っていた。
机の影が床に落ちて、足の震えがそこに映っていた。
逃げ場はない。
教師もいない昼の教室は、閉じた世界のように狭い。
「あと何かある?」
「うーん、“LINE三分以内ルール”も入れよ。どこにいても」
「いいね。あ、あと“呼ばれたら必ず笑顔”ルール」
「“笑わなかったら罰ゲーム”もありだな」
「罰は?」
「そうだな……昼休みに“今日の反省”を朗読とか?」
机を叩く音。笑い声。スマホのシャッター。
どれも、遥の体を縛る鎖の音に聞こえた。
「おい、聞いてんの?」
視線が突き刺さる。
笑いを含んだ声が、ゆっくりと耳に届く。
「ルール、ちゃんと覚えとけよ。破ったら“お前が決められる側”だから」
遥は小さくうなずいた。
喉の奥に鉄の味が滲む。
口を開こうとしても、声が出ない。
笑わなければいけないのに、頬が引きつる。
その引きつりを見て、誰かがまた笑った。
「いい顔すんなぁ、“ルール守る顔”だな」
昼休みの鐘が鳴っても、笑いは消えなかった。
机に戻るとき、背中に感じたのは人の視線ではなく――
“自分を人間扱いしていない世界の重み”だった。