テラーノベル
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放課後。
ドアが少しだけ開く。
「今、大丈夫ですか」
「大丈夫」
生徒は椅子に座るが、すぐには話さない。
少ししてから口を開く。
「最近、なんですけど」
「うん」
「仲良かったやつが、ちょっと距離置いてきてる気がして」
日下部は黙って聞く。
「ケンカしたわけじゃないんです」
「何かあった覚えは?」
「ないです。普通に話してたし、最後に変な空気にもなってない」
机を見ながら続ける。
「でも、なんか変で。話しかけても前より短くなったり、向こうから来なくなったり」
小さく息を吐く。
「避けられてるってほどじゃないんですけど」
「でも近くない」
「そうです」
少し間を置く。
「こういうのが一番分からなくて」
日下部は軽く頷く。
「理由が見えない距離だな」
「はい」
「それ、三パターンくらいある」
生徒は顔を上げる。
「三つ」
「一つ目は、向こう側の問題。疲れてるとか、別のことで余裕がないとか。お前と関係ない理由で距離が空く」
「それならまだいいんですけど」
「二つ目は、ゆるく関係を減らしたい。嫌いってほどじゃないけど、優先度を下げてる状態」
生徒は少し黙る。
「それ、ありそうです」
「三つ目は、何か引っかかりがあったけど、言うほどでもないから言ってない」
「……それもありそう」
苦笑する。
「全部ありそうで、逆に分からないです」
「だろうな」
日下部は机に指を置く。
「共通してるのは、“相手は説明する気がない”ってこと」
生徒は顔をしかめる。
「それが一番困るんですよね」
「説明しない距離は、基本そのままにされる」
短く言う。
「じゃあどうすればいいんですか」
「二択」
生徒は少し身を乗り出す。
「一つは、そのままにする。向こうのペースに合わせて、無理に詰めない」
「もう一つは?」
「一回だけ聞く。“最近ちょっと距離ある気がするけど、何かあった?”って」
生徒は考える。
「聞いてもいいんですか」
「一回ならいい」
「一回」
「何回も聞くと重くなる。でも一回聞くのは確認」
生徒はゆっくり頷く。
「それで何も言われなかったら?」
「その答えも含めて受け取る」
「答えになってなくないですか」
「なる。言わないって選択をしてる時点で、そこまでの関係ってことだから」
生徒は少し黙る。
40
「きついですね」
「きついな」
日下部は続ける。
「でも、理由が分からないまま追い続ける方が消耗する」
生徒は視線を落とす。
「ずっと考えちゃうんですよ。“何かやったかな”って」
「大体、全部は分からない」
日下部は言う。
「人間関係は、説明されないまま終わることも多い」
生徒は苦く笑う。
「不親切ですね」
「そういうもんだ」
少しだけ間を置く。
「ただ」
「はい」
「距離を置かれた時にやることは一つ」
「何ですか」
「追いすぎない」
生徒は顔を上げる。
「理由が欲しくても?」
「欲しくても」
短く言う。
「追うと、もっと距離が開く」
生徒はゆっくり頷く。
「じゃあ、ちょっと引く感じでいいですか」
「それでいい」
日下部は続ける。
「関係は、近づくのも距離を取るのも両方必要だから」
生徒は立ち上がる。
「……聞くか、ちょっと引くか、ですね」
「どっちでもいい」
「ありがとうございます」
ドアの前で少し止まる。
「理由分からないのが一番しんどいですね」
日下部は答える。
「分からないままにしておくのも、ひとつの処理だ」
ドアが閉まる。
理由のない距離は、
はっきりしないまま終わることもある。
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