放課後。
ドアが軽くノックされる。
「どうぞ」
入ってきた生徒は椅子に座ると、少しだけ間を置いて話し始めた。
「仲いいはずなんです」
日下部は黙って聞く。
「結構一緒にいるし、向こうも普通に話してくるし、周りからも“仲いいよね”って言われるんですけど」
指先が机の端をなぞる。
「ずっと気を使ってる感じがあって」
「どんなふうに」
「話す内容とか、タイミングとか。変なこと言ってないかとか、今これ言っていいのかとか、ずっと考えてる」
少し苦笑する。
「会話終わったあとも、“あれ大丈夫だったかな”って振り返ったり」
日下部は頷く。
「楽ではないな」
「はい」
短く答える。
「一緒にいる時間は長いのに、全然慣れない感じがして」
視線を落とす。
「仲いいって言っていいのか分からなくなるんです」
「相手はどう見える」
「普通です。気を使ってる感じもあんまりなくて、自然に話してる」
少し間を置く。
「だから余計に、自分だけおかしいのかなって」
日下部は少し考える。
「二つ考えられる」
「二つ」
「一つは、その関係が“安心できる場所”じゃない」
生徒は顔を上げる。
「安心できない?」
「嫌いとかじゃなくて、評価される感じが強い。だから気が抜けない」
生徒はゆっくり頷く。
「……それ、あるかもしれないです」
「もう一つは」
日下部は続ける。
「お前の側の癖」
「癖」
「嫌われないように調整し続ける癖」
生徒は少し黙る。
「それ、直らないですか」
「完全には消えないかもな」
日下部は言う。
「でも減らすことはできる」
「どうやって」
「一回だけ、少し雑にする」
生徒は戸惑う。
「雑?」
「言い方を柔らかくしすぎないとか、沈黙を埋めすぎないとか。全部完璧にやろうとしない」
生徒は考える。
「それで嫌われたら?」
「そのときは、元々それくらいで崩れる関係だったってこと」
静かに言う。
「仲いい関係は、多少雑でも続く」
生徒は少し息を吐く。
「ずっと気を張ってるの、疲れます」
「だろうな」
「でも抜くの怖いです」
「最初はみんなそう」
日下部は続ける。
「だから少しだけでいい。全部じゃなくて、一回だけ」
生徒は頷く。
「それで様子見る感じですか」
「そう」
「変わらなかったら?」
「少しずつ広げる」
生徒は立ち上がる。
「……やってみます」
ドアの前で振り返る。
「仲いいのに気を使うのって、変じゃないんですね」
日下部は答える。
「珍しくはない」
少しだけ間を置く。
「ただ、ずっと続くとしんどい」
生徒は小さく頷いた。
ドアが閉まる。
仲の良さは、時間だけで決まらない。
気を抜けるかどうかで、だいぶ変わる。






