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流し台の横に、同じ形のコップが二つ並んでいる。
どちらも少し曇っていて、底に水滴が残っていた。
真白はそれを見て、なんとなく片方を手に取る。
特に理由はない。癖みたいなものだ。
「それ、今日使ってたやつだよ」
後ろから声がして、振り返るとアレクシスが冷蔵庫を閉めるところだった。
「知ってる」
「じゃあ、なんで?」
「なんとなく」
真白はそう言って、コップを軽く傾ける。
中身は空だが、口をつけた跡がうっすら残っている気がした。
アレクシスはもう一つのコップを手に取り、同じように水を注ぐ。
蛇口の音が、短く響く。
「同じの二つあると、迷わない?」
「迷う」
「じゃあ、なんで同じのにしたの?」
「……揃ってたほうが落ち着くから」
真白はそれを聞いて、小さく息を吐いた。
確かに、そういうところがある。
テーブルに向かい合って座り、何も言わずに水を飲む。
氷の音が、二回、同じように鳴った。
真白はコップを置いて、ぽつりと言う。
「割れたらどうする?」
「同じの、また買う」
「もう売ってなかったら」
「じゃあ、違うの二つ買う」
即答だった。
真白は少しだけ口元を緩める。
特別な言葉も、触れる仕草もない。
ただ、生活の中で並んでいる感じが、妙に心地いい。
流しに戻されたコップが、並んで伏せられる。
その距離は、さっきとほとんど変わらなかった。