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「……なんで、あんたが謝るんだよ」
開け放たれた窓から差し込む光の中、蓮司は頬杖をついたまま、視線を横に逸らした。
「すみません……」
「おい」
「ご、ごめんなさい……っ」
椅子にちょこんと腰かけた少女は、縮こまりながら、両手を膝の上できゅっと握っていた。
背中を丸め、顔を上げられないまま、何度も「すみません」「ごめんなさい」と口にする。
まるで呼吸の代わりみたいに、謝罪が出てくる。
「……やべぇな。壊れた機械みてえだ」
「……っ、そう、ですよね……」
「褒めてねえよ?」
少女の手がぴくりと震える。その小さな震えに、蓮司は一瞬だけ目を細めた。
「さっきから何回謝ってんだよ。数えてみろ」
「……っ、わかりません」
「だろうな。……で、何に対して謝ってんのか、覚えてるか?」
「……いろんなこと、全部……私が悪いから」
「へえ。そりゃすげえ」
蓮司の声はどこまでも軽くて、わずかに嘲るような響きを含んでいた。
「神様でもやってんの? 世界の責任、背負ってくれてありがとな」
「……それくらい、私、ひどいこと……」
「例えば?」
「……」
少女は答えなかった。いや、答えられなかった。
「思いつかねえんだろ? 本当は」
「そんなこと……」
「じゃあ言ってみ。俺、暇だから聞いてやるよ。あんたが“許されない”って思う理由、全部」
蓮司の言葉に、少女はさらにうつむいた。目元にうっすらと涙が滲んでいる。
「……人を傷つけたんです」
「誰を」
「友達。……元、友達。私が、無視したから」
「ふうん」
蓮司は、足を組み替えた。机に置いた指が、カツカツと無意味にリズムを刻む。
「で、それから?」
「それから、何も……話せなくなって、気づいたらひとりになってて……」
「そんで、今でもそのことばっか考えて、謝ってばっかで」
「……はい」
「そりゃさ、悪かったのかもな。だけど」
蓮司の指が止まる。
「“一生罰を受け続けなきゃいけないほどの罪”って、本当にそんなに簡単に生まれると思ってんのか?」
少女は、驚いた顔を上げた。泣きかけの目が、蓮司を見つめる。
「でも……でも、私……」
「人を突き飛ばしたわけでも、ナイフで刺したわけでもねえだろ? 言葉で傷つけたっていうなら、世の中みんな戦犯だ」
蓮司は微笑む。それは皮肉に見えたが、どこか救いを孕んでいた。
「謝るのも、苦しむのも勝手だけどよ。……“もういいよ”って、誰かに言ってほしいくせに、自分がそれを一番許してないのが、いちばん面倒くせぇな」
「……」
「じゃあ俺が言ってやる。お前がどう思ってようがな」
蓮司は少女の顔をまっすぐに見据えて、静かに言った。
「……もういいよ」
少女の瞳が揺れた。
「自分を許すってのは、傲慢じゃない。……生きてくための、最低条件だ」
少女は唇を震わせて、小さく、小さくうなずいた。
その瞳から、ひとしずく、涙がこぼれた。
「……ありがとう、ございます」
「また謝ったらぶっ飛ばすけどな」
蓮司はにやりと笑った。