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※おぉう、錯綜してきたぞ(ヤバイ……やめろ……
部屋には椅子がふたつ。
机も窓もない。ただ白く、狭く、音のない空間。
その中央に座るのが、遥だった。
足を組み、片肘を肘掛けに預けたまま、彼は顔を上げない。
目の前の椅子に、少女が座っていた。
制服の襟元が乱れている。口を開こうとして、やめる。開いて、やめる。
五度目くらいで、かすれた声が漏れた。
「……誰にも、言えなかったんです」
遥は反応しない。黙ったまま、目を閉じていた。
「学校、嫌いです。家も、帰りたくない。朝になるのが怖くて。夜も眠れなくて。だから……ここに、来ました」
指先が震えていた。
吐く息が細くなって、喉の奥で言葉が詰まる。
「わたし、たぶん……死にたいとか、思ってるんです」
遥は、顔を上げた。
目が合う。
けれど、慰めるでもなく、否定するでもない――まるで「それがどうした」とでも言うような、ただまっすぐな眼差しだった。
そして、言った。
「……それでも、お前、ここに座ってんだな」
少女の肩が、ぴくりと動いた。
遥は腕を組み直し、視線を逸らす。
「俺は、お前の全部が正しいなんて思わねぇよ。けど――」
一拍置き、低い声で続ける。
「誰にも言えないってことは、誰かに聞いてほしいってことだろ」
沈黙が戻る。けれど、それは先ほどまでの「言えなさ」ではなかった。
目の奥に、何かが波打っていた。まだ言葉にならない感情のようなもの。
遥はそれを見て、軽く息を吐く。
「それでいい。今日はそれだけ、話せたなら」
彼は立ち上がらない。ただ背もたれに深く沈み、天井を見た。
「お前が話すなら、俺は聞いててやるよ。――喋らなくても、な」
少女は、初めてまっすぐ遥を見る。
その目に、涙はない。ただ、かすかな熱だけが灯っていた。
次に入ってくるのは、誰だろう。
遥の「相談室」は、いつでも無言で開いている。
だが、彼は知っている。
ここに来るやつらは、皆――話すことを諦めていたやつらだと。
そして、諦めたままでも座っていい椅子が、一脚だけあることも。