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#キャバ嬢
ruruha
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#推したち
営業も中盤を過ぎる。団体客が帰って、店内の空気が少し落ち着いた。
グラスを下げようとしたところで、黒服が近づいてくる。
「ナナ、お願いします」
「はい」
伝票を受け取りながら、黒服が奥の席へ目を向けた。
「三崎様、お待たせしました」
「ああ」
短い返事。
私は席へ向かく。
ああ、この人だった。
いつも店全体を見ている人。
誰かが笑えば、その理由まで見ているような目をする人。
「こんばんは」
「こんばんは」
相変わらず、穏やかな声。
派手に飲むわけでもない。
酔って騒ぐこともない。
それなのに、不思議と印象に残る。
「今日は少し静かですね」
私が言うと、三崎さんは店内へ視線を向けた。
「静かな方が、人の声がよく聞こえます」
「仕事みたいですね」
思わず笑う。
「そうですか?」
「だって、そんなところまで見てる人、あまりいませんよ」
「見ようとしているわけじゃないんです」
グラスを持つ。
「目に入るだけです」
その言い方は、前にも聞いた気がした。
見ている。
じゃなくて。
見えてしまう。
そんな人。
「じゃあ、私も見られてます?」
冗談半分で聞く。
「もちろん」
即答だった。
私は少し笑う。
「何ですか、その間」
「間?」
「今、考えませんでしたよね」
「考える必要がないので」
「怖いですね」
「そうですか」
「はい」
私は水割りを作りながら続ける。
「三崎さんって、人のこと覚えてるじゃないですか」
「ああ」
「この前も、私が前に話したこと覚えてましたよね」
「覚えています」
「普通、忘れますよ」
三崎さんは少しだけ考える。
「忘れる理由がないので」
その返事に、また笑ってしまう。
やっぱり変わっている。
でも、不思議と嫌じゃない。
そのとき。
入口の方から笑い声が聞こえた。
私は反射的に視線を向ける。
「あ、こんばんは」
聞き慣れた声。
高槻さんだった。
少し遅れて、別の席へ案内される人影が見える。
真瀬さん。
今日は珍しく、二人とも同じ時間帯らしい。
「人気ですね」
不意に三崎さんが言う。
「え?」
「忙しくなりそうです」
私は笑って首を振る。
「毎日こんな感じですよ」
そう答えながらも、二人が同じ夜に来たことが、少しだけ気になっていた。
コメント
1件
第44話、読み終えました。三崎さんの「見ようとしているわけじゃない。目に入るだけ」という台詞がすごく印象に残りました。観察が意図ではなく性質になっている人って、物語の中で特別な存在感を持ちますよね。ナナが「見られてます?」と冗談めかして返す距離感も、この二人の関係性がじわじわ伝わってきて好きです。最後に高槻さんと真瀬さんが同じ夜に来たことで、ほのかに張り詰めた空気が生まれる。日常の裏側で何かが動き始めている予感が、静かに広がっていく構成だと思いました。