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相談者は座るなり言った。
「“自分は悪くない”って言い切れる人、いるじゃん?」
蓮司は頷く。
「いるな」
「でも、どうやってあそこまで整合性取ってんだ?」
少し間。
「普通、どこかで引っかかるだろ」
「引っかかるやつは、言い切れない」
蓮司は即答する。
相談者は眉を寄せる。
「じゃあ、言い切れるやつは?」
「引っかからない形にしてる」
「どうやって」
沈黙。
「前提をずらす」
短く言う。
「前提?」
「何が“悪い”かの基準」
相談者は黙る。
「例えば」
蓮司は続ける。
「“相手が傷ついたら悪い”って基準なら、だいたい自分も引っかかる」
「まあな」
「でも、“自分に非があるかどうか”に変えると」
「変わる?」
「相手の感情は切り離せる」
相談者は少し息を止める。
「……ああ」
理解した顔になる。
「“俺は間違ったことしてない”って言い方になる」
「そう」
沈黙。
「ずるくないか、それ」
「整合性は取れる」
蓮司は淡々と言う。
「あともう一つ」
「何」
「責任の分配を変える」
相談者は顔を上げる。
「どういうこと」
「全部を自分に置かない」
「相手にも振る?」
「状況にも振る」
少し間。
「“あの時こうだったから仕方ない”ってやつか」
「そう」
相談者は苦笑する。
「それ、聞いたことある」
「よくある型だ」
沈黙。
「でもさ」
相談者は言う。
「それやり続けたら、自分ずっと悪くならなくないか」
「なる」
あっさり返る。
「怖くないのか」
「怖さを感じないように組んでる」
相談者は黙る。
「正しさってな」
蓮司が続ける。
「事実じゃなくて、構造だ」
「構造?」
「どこを切り取って、どう並べるか」
少し長い沈黙。
「じゃあ」
相談者はゆっくり言う。
「“自分は悪くない”って言い切るやつは」
「うん」
「そういう構造を作るのがうまいだけ?」
「それもある」
蓮司は頷く。
「あと、もう一つ」
「何」
「切り捨てができる」
相談者は目を細める。
「何を」
「都合の悪い部分」
沈黙。
「全部拾ってたら言い切れない」
相談者は小さく笑う。
「そりゃそうだ」
静かな空気。
「じゃあさ」
「何」
「“自分は悪くない”って言い切るのって、正しいのか?」
少し間。
「正しさを守ってるわけじゃない」
蓮司は言う。
「正しさを作ってる」
相談者は黙る。
長めの沈黙。
「……じゃあ俺は無理だな」
ぽつりと落ちる。
「全部拾っちゃうから」
蓮司は短く言う。
「それも一つの整合性だ」
相談者は立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「言い切れる強さって」
「うん」
「強さじゃなくて、削り方か」
蓮司は否定しない。
“自分は悪くない”は、事実の証明じゃなく、基準の設計で成立する。
だからそれは、正しさというより、どこまでを自分に含めるかの問題になる。
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