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ドアが静かに開いて、少女が入ってきた。椅子に腰を下ろすと、手をぎゅっと握りしめたまま視線を落とす。
「……誰かに頼るのが苦手なんです」
声はかすれて、今にも消えそうだった。
蓮司は机に肘をつき、彼女の表情を見守る。
「苦手っていうのは?」
「助けてほしいって思っても、言えないんです。言ったら迷惑だとか、重いって思われるんじゃないかって……。だから結局、自分で抱え込んで。で、つぶれそうになって……」
彼女はそこまで言って唇を噛んだ。
蓮司は少し間を置いてから、静かに口を開いた。
「……頼れないってのは、弱さじゃないと思う。むしろ“自分でやらなきゃ”って責任感が強い証拠だろ。でもな、人間は一人で全部背負うようにはできてない」
彼女の指先が震える。
「迷惑かけるんじゃないかって思うよな。でも、相手にとっては“頼られた”ってことが嬉しい場合もあるんだ。……オレもそうだし」
その言葉に、彼女ははっと顔を上げる。
「……嬉しい、んですか?」
「ああ。だって、自分を信じてくれたってことだろ。だから少しでいい。“ちょっとしんどい”とか、“聞いてほしい”とか。それだけでも、相手に伝わる」
彼女の目に、かすかな光が戻る。
「……そんな小さなことで、いいんですか」
「それで十分だよ。頼るってのは、大きなことを任せるだけじゃない。気持ちを共有するだけでも、人は救われる」
彼女は長く息を吐き、肩の力を少し抜いた。
「……少し、言ってみようかな」
「うん。それでいい」
部屋の空気は、ほんの少しだけ柔らかくなった。