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ドアが開く。
相談者は少し噛みながら言った。
「発表のときだけ、声変になる……」
蓮司は椅子を引く。
「どんなふうに」
「小さくなるか、逆に変に高くなる。
途中で詰まるし、何言ってるか分からなくなる」
「普段は?」
「普通に話せる。友達とは問題ない」
蓮司は座る。
「じゃあ能力じゃないな」
相談者は少し力を抜く。
「じゃあ何……」
「“一人で話してる”状態になってる」
「え」
「発表のとき、相手見てないだろ」
相談者は黙る。
「教科書か黒板か、どっか一点見てる」
「……見てる」
「それだと“反応ゼロの空間”で話すことになる」
少し沈黙。
「だから声の調整が崩れる」
「調整……」
「普段は相手の顔で無意識に調整してる。
それがなくなると不安定になる」
相談者は小さく頷く。
「じゃあどうすればいい」
「一人だけ決めて見る」
「一人?」
「誰でもいい。
前の席でも、端でも」
相談者は眉を寄せる。
「その人だけ見るの?」
「ずっとじゃない。
“区切りごとに戻る”」
間。
「区切り?」
「一文終わるごとに、その人を見る」
相談者は少し考える。
「それで変わる?」
「“会話”に戻る。
一方通行じゃなくなる」
少し沈黙。
「でも目合うの怖い」
「合わせなくていい。
方向だけでいい」
相談者は黙る。
「あと、最初の一言」
「最初?」
「最初だけ少し大きめに出す」
「なんで」
「最初で基準が決まる。
小さいとそのまま下がる」
間。
「途中で戻せない?」
「戻せるけど難しい。
最初の方が簡単」
相談者は小さく息を吐く。
「あともう一個」
「何」
「“完璧に言おうとしない”」
「それ無理……」
「今は“崩れないこと”優先だろ」
相談者は黙る。
「言い直していい。
詰まっても止まっていい」
「止まったら終わりな気がする」
「止まっても終わらない。
焦って詰める方が崩れる」
少し沈黙。
「なんかさ」
「何」
「発表って、評価されてる感じが強い」
「されてるな」
「だから一気に怖くなる」
「だから“誰か一人に話す”に変える」
相談者は小さく頷く。
「全員に向けるから、全部ズレる」
間。
「一人に戻すか……」
蓮司は軽く頷く。
ドアの前で立ち止まる。
「声じゃなくて、向きの問題だった」
「そう」
ドアが閉まる。
声は単独では安定しない。
誰かに向いたときだけ、元に戻る。