テラーノベル
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教室のドアを開けた瞬間、結城の視線が遥に突き刺さった。昨日、弟が何気なく口にしたこと——「遥さん、優しかった」と——それが頭をぐるぐると回り、結城の胸の奥の怒りが火山のように爆発しそうだった。
「おい、遥」
声は低く、殺意に近い冷たさが滲む。
遥は机の端に指を絡め、体を小さく丸める。逃げる場所などないのを知っている。
「弟に何してんだよ。……あいつにだけいい顔したのか?」
結城は言葉を噛みしめるように吐き出す。声には苛立ち、そして徹底的な軽蔑が込められていた。
クラスメイト数人が背後で顔をひそめ、笑いをこらえる。誰も止める者はいない。
「見せろよ、お前の情けねえ顔。弟にだけいい顔して、笑顔作るその薄っぺらい人間性」
言葉が遥の胸を裂く。息が詰まり、手のひらが汗でぐっしょり濡れる。
結城は机の端を叩き、椅子を揺らす。揺れに合わせて遥の肩が跳ね、心臓が喉まで上がる。
「もっと、怖がれよ。泣けよ。弟に知られたくないだろ、お前みたいな……くだらねえ奴」
周りの笑い声が増幅する。誰も注意しない。
結城の指先が肩や腕に軽く触れるたび、冷たく、しかし計算された痛みが全身に走った。
「俺の弟に、お前みたいなやつが関わりやがって……覚えとけ。お前の全部、潰してやる」
結城の目は玩具を見るような冷酷さではなく、憎悪そのものだった。
それは、弟への裏切りに対する復讐であり、遥はその標的だった。
遥は唇を噛み、声を出すこともできず、ただ震える。涙は出さない。出した瞬間、さらに面白がられるのは分かっていた。
教室の床、壁、空気——すべてが遥を圧し潰す牢獄のようだった。
結城の手が肩を軽く叩き、次に机を小突く。
「ほら、見せろ。情けねえお前の全部を。弟にだけいい顔して、でも現実はこれだって」
周囲の笑い声が、遠くからも響き、遥の胸の奥を引き裂いた。
遥は息を止め、目を伏せた。身体も心も結城に徹底的に痛めつけられ、逃げ場はなかった。
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