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駅前の書店は、午後になると少し落ち着く。
人の気配はあるのに、音は控えめで、ページをめくる気配だけが漂っている。
「ここ、寄っていい?」
真白が遠慮がちに言う。
「もちろん。俺も探したい本あるし」
二人は自然に別れ、それぞれの棚へ向かった。
真白は文庫、アレクシスは専門書のコーナー。
しばらくして、真白が一冊手に取ったまま立ち止まる。
背表紙を撫で、少し考える。
「……高いな」
「どれ?」
いつの間にか、アレクシスが隣にいた。
「これ。前から気になってた」
「中、見た?」
「うん。好きそう」
アレクシスは値段を見て、少し首を傾げる。
「今すぐじゃなくてもいい?」
「うん。今日は見送る」
そう言って戻そうとした瞬間、
アレクシスがその本を受け取った。
「俺が買う」
「え」
「貸してくれたらいい」
「でも、それ」
「共有書棚に置こう」
真白は少し黙ってから、小さく笑った。
「……ずるい言い方」
「嫌?」
「嫌じゃない」
レジへ向かう途中、真白が言う。
「俺、こういう店好きだけどさ」
「うん」
「一人だと、長居しない」
「今日は?」
「今日は、楽」
会計を終え、紙袋を受け取る。
それをアレクシスが自然に持った。
「重くない?」
「大丈夫」
外に出ると、空気が少し冷たかった。
「帰ったら、すぐ読む?」
「一緒に」
「じゃあ、コーヒー淹れる」
「頼む」
書店で買った一冊が、
その日の夜の時間を、もう決めていた。
特別な約束じゃない。
ただ、並んでページをめくるだけ。
それで十分だった。