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放課後。

夕陽が沈みかけた教室に、ざらついた笑い声が響いていた。

机の列は乱れ、中央に遥が立たされている。

制服の袖は引き裂かれ、髪は乱れて額に張り付いていた。

床にはノートと教科書が散乱している。


「おい、“かわいそうな奴”がまた立ってるぞ」


誰かが言った。

笑いが広がる。


「見てみろよ、あの顔。誰も助けてくれねえのに、まだ“待ってる”んだぜ」


「可哀想~、誰か“日下部くん”呼んでやれよ」


「もうアイツ、別の友達できたってよ」


その言葉に、教室の空気がざわりと揺れた。

遥の心臓がひとつ跳ねる。


「な? 聞こえたか? お前の“親友”、もう蓮司と仲良くやってんだよ」


「なんでだと思う?」


蓮司が前へ出た。

柔らかく笑って、遥の顎を指先で持ち上げる。


「――お前が、汚いからだよ」


その一言で、何かが崩れる音がした。


笑い声が一斉に爆発する。


「そうそう! 見ろよこの目!」


「裏切り者のくせに被害者ヅラか!」


「お前さ、“かわいそう”って言われたいだけだろ?」


背中に蹴りが入る。

机の角が腰骨を打つ。

息が詰まり、咳き込みながら崩れ落ちる。

頬に飛んだチョークの粉が、涙と混じって白く滲む。


「泣くの早えな」


「なに? また“ごめん”って言えば許されると思ってんの?」


「お前の“優しさ”ってさ、結局自分が楽になるためだけだよな」


蓮司が笑いもせずに呟く。


「そう。お前は“被害者のフリをした加害者”だ」


その声に、クラスの誰もが一瞬だけ黙った。

そして次の瞬間、沈黙が破裂するように暴言が溢れ出す。


「人のせいにすんなよ!」


「同情されたくて涙出してんだろ!」


「お前のせいで日下部も終わったんだよ!」


足が、手が、次々と動く。

誰が蹴り、誰が叩いたのかも分からない。

ただ、痛みが全身を焼く。

何度も、何度も。


(違う……俺は……)


声にならない声が喉で詰まる。

その姿を見下ろして、誰かが吐き捨てた。


「黙ってると、ほんとに“汚い”な」


蓮司は、黒板に背を預けたまま、静かに観察していた。

何も止めない。

ただ、誰よりも静かにその「空気」を支配していた。


「見ろよ」


と、蓮司が低く言う。


「これが“正義のつもりで裏切った奴”の末路だ。なぁ、日下部?」


その名前が出た瞬間、遥の心臓が跳ねた。

教室の扉の隙間――

そこに立っていた影が、確かに揺れた。

動けず、ただ見ているだけの、日下部の影。


蓮司の視線が、そこに一瞬だけ流れる。

唇が、薄く笑みの形を取った。


「な? ほら、ちゃんと見てる。

お前が“守ろうとした人間”は、いま黙って見てるんだよ」


遥は床に膝をつき、喉の奥から漏れた声が空気を掻いた。


「……やめて……もう……」


その弱々しい声が、笑い声を呼び、水面のように広がった。

誰も止めなかった。

止められる者はいなかった。


そして、誰もが笑い疲れたころ、

蓮司だけが最後まで立っていた。

その視線の先で、日下部の姿はもう消えていた。


──沈黙の中に、地獄は形を変えて続いていく。



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