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#読み切り
ruruha
1,191
み う .
眠狂四郎
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ドアが開く。
相談者は椅子に座ると、小さく息をついた。
「人と話したあとさ」
蓮司は向かいに座る。
「うん」
「家帰ってから、一人反省会始まるんだ」
「何を反省する」
「さっきの会話」
「例えば」
「変なこと言わなかったかな、とか。あそこで黙ればよかったかな、とか。あの言い方きつかったかな、とか」
少し間が空く。
「毎回?」
「結構」
「疲れるな」
相談者は苦笑した。
「だから相談に来た」
蓮司は少し考える。
「その反省会、結論出るか」
相談者は黙った。
「……出ない」
「毎回?」
「毎回」
「じゃあ反省会じゃないな」
相談者は顔を上げる。
「え」
「反省って、次どうするか決めるためにやるもんだ」
「うん」
「お前がやってるのは、同じ場面を何回も見返してるだけだ」
相談者は少し笑った。
「言われてみれば」
間。
「でも気になるんだよ」
「何が」
「相手がどう思ったか」
「聞いた?」
「聞いてない」
「分かる?」
「分からない」
「じゃあ何を根拠に考えてる」
相談者は言葉に詰まった。
「想像」
「そうだな」
少し静かになる。
「でも想像するしかなくない?」
「するのはいい」
蓮司は続けた。
「問題は、想像を事実に変え始めることだ」
相談者は黙る。
「『あの間があったから怒ってる』『返事が短かったから嫌われた』」
「……ある」
「それ、全部予想だ」
相談者は小さく息を吐いた。
「頭の中では、もう決定事項になってる」
「だから疲れる」
少し間が空く。
「お前さ」
「何」
「うまく話せた日は反省会するか」
相談者は考えた。
「……しない」
「じゃあ失敗した時だけ覚えてる」
「そうなる」
「人間、そういう癖ある」
相談者は机を見つめた。
「何か損だな」
「かなり」
少し沈黙。
「あと」
蓮司は相談者を見た。
「会話って、一人で作ってると思ってないか」
「どういうこと」
「会話は相手も半分作ってる」
相談者は黙る。
「盛り上がる日もあれば」
「うん」
「噛み合わない日もある」
「うん」
「それを全部自分の責任にしてる」
相談者は苦笑した。
「してる」
「だから一人反省会になる」
間。
「でも改善したい気持ちはある」
「だったら反省は一個だけでいい」
相談者は首を傾げる。
「一個?」
「次はもう少し相手の話を聞こう、とか」
「うん」
「もう少しゆっくり話そう、とか」
「うん」
「それ決めたら終わり」
「終わり?」
「それ以上は繰り返しても増えない」
相談者は少し笑った。
「毎回二時間くらいやってた」
「長いな」
「一人上映会だった」
蓮司も少し笑う。
「編集までしてそうだ」
「してる。相手の心の声まで勝手に作る」
「それは脚本だ」
二人とも少し笑った。
笑いが落ち着く。
相談者は静かに言った。
「結局、自分が一番厳しかったのかも」
蓮司は頷く。
「他人より先に、お前がお前を責めてる」
少し静かな時間が流れた。
相談者は立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「反省会じゃなくて、一人で物語作ってたんだな」
「たまには打ち切って帰れ」
相談者は笑った。
「そうする」
ドアが閉まる。
誰かと話したあとに反省することは、悪いことではない。
でも、答えのない想像を何度も繰り返しているなら、それは反省ではなく、自分を疲れさせるだけの時間になっているのかもしれない。
コメント
1件
うわ、すごくわかります……「一人反省会」。私もよくやるから、この会話が刺さりました。蓮司さんの「それは反省じゃなくて、同じ場面を何回も見返してるだけ」「会話は相手も半分作ってる」って指摘、すごく腑に落ちました。一人で背負いすぎてたんだなって。最後の「一人で物語を作ってた」という気づき、優しい言葉で核心をついてて、読後感がすごく良かったです。エピソード全体の空気感も好きです。