テラーノベル
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俺は動けなかった。周りの視線が重くのしかかり、声も出せず、ただ縮こまっているだけ。誰が笑ったのか、誰が叩いたのか、全部が同時に襲いかかる。手を掴まれ、身体を押さえつけられ、無理やり動かされる。痛みと屈辱が交互に流れ込み、俺の意識はぐちゃぐちゃにかき回される。
「お前、また空気読めてないだろ」と誰かが嗤う。
俺は口を開き、何か言おうとするが、声にならない。息だけが漏れる。
「ん……あ……」
それだけで、さらに笑いが増す。
足を蹴られ、身体を押しつけられ、持たされた物が当たるたびに、全身が震える。俺が存在することそのものが、誰かの遊びになっている気がした。自分を守ろうとしても、力はすべて吸い取られ、痛みだけが残る。
目の前で嗤う顔、見下す顔、無関心な目。すべてが俺を追い詰める。
「動くな、笑うな、感じるな」
――自分に言い聞かせるけど、身体は勝手に反応する。痛みと屈辱が混ざった感覚に、吐き気がするほどの羞恥が加わる。
俺は、ただ耐えるしかない。逃げ場も、味方もいない。存在そのものが、ここでは罪で、笑いの種でしかないのだと、また一つ確信する。
放課後の体育館。誰もいないはずだったが、クラスの数人がすでに待ち構えていた。遥は靴を揃えたまま、動くこともできずに立っていた。
「今日は特別に、みんなで遊ぼうぜ」
――男子の一人がそう言うと、残りも嗤いながら周囲に散らばる。
遥に向かって何かを投げつける者、腕や肩を押さえつける者、わざと蹴る者。どれも大した力は必要ない。目的は痛みではなく、支配と羞恥を共有することだ。物音や笑い声が体育館に反響するたび、遥の心は一層小さく縮こまる。
「お前、どうしてそんな動きが鈍いんだよ? 見てるだけでイライラすんだよ」
「声出してみろよ、どんな声が出るか見たいんだよな」
遠慮のない言葉と目線が、遥の全身を拘束する。どれだけ抵抗しても、周囲の笑いと嘲りが、まるで空気の壁のように押し寄せる。
腕を掴まれ、無理やり方向を変えられる。膝が何度も押し付けられ、倒れそうになるたび誰かが手を伸ばして止める。痛みも屈辱も、ひとつひとつが観客の娯楽になっている。
遥の意識は次第にぐらつき、理性と羞恥が交錯する。心の中で「どうせ俺なんか……」と繰り返すたび、身体の震えと吐き気が増していく。逃げ場も味方もない。存在するだけで、ここでは「笑い」「怒り」「支配」の道具でしかないのだ。
最後に誰かが物を押し付け、遥の身体が勝手に反応する瞬間、クラス全体の笑いが頂点に達した。遥はただ、涙も声も出さず、縮こまったまま自分の無力さを噛み締めるしかなかった。
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