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#読み切り
ドアが開く。
相談者は疲れた顔で言った。
「帰ったあとも、会話ずっと頭の中で再生してる……」
蓮司は椅子を引く。
「どの辺が残る」
「言い方とか。
変な空気なかったかとか。
あと、“あれ別の返しあったな”とか」
蓮司は座る。
「相手は?」
「多分もう忘れてる」
「そこも含めてしんどい?」
相談者は小さく頷く。
「自分だけ残ってる感じする」
少し間。
「お前、“会話が終わったあと”も会話してるな」
相談者は苦笑する。
「してる……」
「脳内で続編始まってる」
「しかも大体悪い方向」
蓮司は軽く頷く。
「それ、反省というより“未処理化”だな」
「未処理?」
「終わった会話を、終わらせてない」
相談者は黙る。
「本来、会話ってその場で半分以上流れる」
「でも自分だけ残る」
「残してるからな」
間。
「なんでこんな引っかかるんだろ」
「“正解の会話”探してるから」
相談者は眉を寄せる。
「正解?」
「もっと上手い返し。
もっと自然な反応。
もっと好かれる言い方」
少し沈黙。
「毎回あとから編集してる」
相談者は視線を落とす。
「……やってる」
「でも会話って編集前提じゃない」
間。
「その場で出たものが本体」
「でも失敗したくない」
「だから終わったあとも修正会議してる」
相談者は吹き出す。
「一人会議な……」
少し静かになる。
「あと、お前ちょっと勘違いしてる」
「何」
「相手も、自分のことで結構いっぱいいっぱい」
相談者は顔を上げる。
「お前の一言を、
何時間も分析してる可能性は低い」
「……まあ、そうか」
「人間、自分中心で忙しい」
間。
「でも、自分だけ覚えてる感じする」
「感情動いた側が残りやすいからな」
相談者は黙る。
「緊張した。
嫌われたくなかった。
失敗したくなかった。
そういう会話ほど残る」
少し沈黙。
「じゃあどうすればいい」
「“終了動作”を作る」
「終了動作?」
「帰ったあと、
“はい終わり”って区切る行動」
相談者は考える。
「例えば」
「シャワーでも、音楽でも、動画一本でも。
脳内会話を切る合図」
間。
「そんなので変わる?」
「人間、意外と切り替え雑だからな」
相談者は少し笑う。
「今までは?」
「布団入ってから再開してた」
「最悪のタイミングだな」
「分かってる……」
少し静かになる。
「あと、全部の会話を“評価対象”にするな」
相談者は黙る。
「普通の雑談まで採点してる」
「癖なんだよな」
「採点すると、会話が“記録”になる」
間。
「じゃあ、多少変でも流していい?」
「むしろ大半それ」
相談者は小さく息を吐く。
「なんかさ」
「何」
「みんな普通に喋って忘れてるのに、
自分だけ残業してる感じだった」
「脳内だけ延長戦してるな」
相談者は少し笑った。
ドアの前で立ち止まる。
「終わった会話、終わらせる」
「それでいい」
ドアが閉まる。
会話は、
完璧に保存するものじゃない。
少しくらい曖昧なまま流れていく方が、人間関係は軽く続く。