窓の外は夕暮れで、教室の影が長く伸びていた。
机の端に腰をかけた彼女は、スマホを握ったまま視線を上げない。
「……好きな人に、駆け引きしすぎって言われた」
蓮司はお菓子の袋を開け、無造作にポテトチップをつまむ。
「で、実際どうなんだ?」
「……駆け引きっていうか、あんまり好きって言うと、飽きられるかなって」
「なるほど。で、結果その距離感で向こうは不満ってわけか」
彼女は黙って頷く。袋の端をいじる手元が落ち着かない。
「……好きって、言わないほうが長続きするんじゃないですか」
蓮司は短く笑った。
「言わないと長続きする恋って、そもそも薄いだろ」
「……でも、嫌われたら終わりじゃないですか」
「それ、逆だな。嫌われるのが怖くて抑えてるうちは、最初から半分終わってる」
蓮司は袋を机に置き、彼女をまっすぐ見た。
「本気で好かれたいなら、駆け引きより“丸出し”の方が早い」
彼女は眉を寄せ、少しだけ笑う。
「……なんか、蓮司くんに言われるとムカつくけど、わかる気がする」
「それ、たぶん合ってるよ。俺もムカつかせるの得意だから」
彼女は肩を落としながらも、まだスマホを手放さない。
画面には、未送信のメッセージが光っていた。
「……じゃあ、“好き”って送ってみようかな」
「いいんじゃない。どうせ返事が悪かったら“冗談”って言えば逃げられる」
「……それ、余計に駆け引きじゃないですか」
蓮司はにやりと笑う。
「そうそう。駆け引きはやめろって言ったけど、負ける勝負は別だ」
「……負けるって、決めつけます?」
「決めつけじゃない、保険。恋愛なんて、勝ち続けるやついないからな」
彼女はスマホを見つめ、指を止めたまま小さく息をつく。
それでも数秒後、メッセージは送信される。
「……送った」
「お、やるじゃん。あとは、返事が来ても来なくても、俺に面白く話してくれ」