テラーノベル
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ドアが開く。
相談者は少し考えてから言った。
「自分の話、誰も覚えてない気がする……」
蓮司は椅子を引く。
「どのレベルで」
「前に話したこと、また同じこと聞かれる。逆に相手の話は覚えてるのに」
「何回くらい」
「一回じゃない。何回かある」
蓮司は座る。
「内容は?」
「普通のこと。部活とか、進路とか」
「重くはない?」
「重くない」
少し沈黙。
「それ、“聞かれてない”んじゃなくて、“残ってない”」
「同じじゃない?」
「違う。その場では通ってる」
相談者は黙る。
「残る話と、流れる話がある」
「何が違うの」
「引っかかり」
相談者は眉を寄せる。
「引っかかり?」
「“それ誰の話か分かる要素”」
間。
「どういうこと」
「情報だけだと、誰が言っても同じになる」
相談者は少し考える。
「……あ」
「例えば“部活忙しい”は全員言う」
「確かに」
「そこに“自分だけの角度”がないと、記憶に残らない」
少し沈黙。
「じゃあどうすればいい」
「一個だけズラす」
「ズラす?」
「事実に感想を足す。短くでいい」
相談者は黙る。
「“部活忙しい”じゃなくて、“部活忙しいけど、正直ちょっと楽しい”みたいな」
「……それだけ?」
「それだけで“誰の話か”になる」
間。
「でもそんなに毎回思いつかない」
「毎回いらない。一回でいい」
相談者は顔を上げる。
「一回残れば、次から思い出される」
少し沈黙。
「逆に、相手の話覚えてるのは?」
「引っかかりがあるから」
「無意識で見てた……」
「人は“情報”じゃなくて“差”で覚える」
間。
「なんかさ」
「何」
「ちゃんと話してたつもりだった」
「間違ってない」
「でも、同じこと言ってた」
「そういうことだな」
相談者は小さく息を吐く。
ドアの前で立ち止まる。
「一個だけ変えてみる」
「それでいい」
ドアが閉まる。
覚えられるかどうかは、量じゃない。
少しの差だけで決まる。
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